日本にラッピングを広めた“貼りやすさ”が魅力 世界的メーカー「エイブリィ・デニソン」

ジーマイスターで開催されたエイブリィ・デニソンのカーラッピング講習
PPF・ラッピング

世界的には有名なのに日本では知られていなかったり、業界内のBtoB(事業者間取引)では大きなシェアを誇っているのに一般的には認知されていなかったり、という製品・ブランドはどの業界でもありうるもの。世界でも国内でも、カーラッピングのプロ定番アイテムとなっている「Avery Dennison(エイブリィ・デニソン)」は、まさにディテイリングの世界におけるそんなブランドの代表的なものの1つ。日本ではそのブランド名自体を知っている人は多くないと思われますが、有名大手メーカー品と並んで国内カーラッピング市場を現在にまで押し広げてきた立役者の1つといえるでしょう。
そして今年、コロナ禍で休止を余儀なくされていたメーカー公式の講習会を本格的に再始動。カラーチェンジ、フリートマーキングの両面でカーラッピング市場の一層の拡大が期待されます。

独自の粘着剤技術が生み出す優れた施工性

エイブリィ・デニソンは、アメリカ・オハイオ州に本社を構え、世界50カ国以上に製造・販売拠点を展開。1935年に世界初となる感圧粘着ラベルを開発して以降、粘着材料やラベル製品でその分野を牽引してきたグローバルカンパニーで、2022年の売上高は90億USドル(約1.2兆円)にも上ります。

そしてこの粘着剤に関する先進的な技術は、カーラッピングのフィルムとしてディテイリングの世界でも重宝されています。粘着剤に気泡の抜け道を確保した独自のハニカム形状「Easy Apply(イージーアプライ)」技術と、表面に微細なインクドットを特殊加工して滑りやすさを確保した「RS」技術という2つの独自技術により、位置決めしやすく綺麗に仕上がる施工性を実現。もちろん施工性だけでなく屋外での長期耐候性も、世界各地域の気候(紫外線量や湿度など)を踏まえた試験を重ね、大手メーカーとしての高い品質を保持。見た目では表面カラー以外は違いが分かりづらい「同じような塩化ビニル素材のカラーフィルム」でも、実はメーカーや製品によってこうした見た目には分かりづらい構造の差があります。

  • エイブリィ・デニソンのカーラッピング
    ソリッドからメタリック、デザイン柄まで多彩なカーラッピングフィルムSWF

この独自技術が注がれたカーラッピング用フィルムは、国内では2008年に日本法人エイブリィ・デニソン・ジャパンの設立とともに公式に上陸。以降、自動車ボディのような3次曲面へも綺麗に貼れる施工性と長期耐候性を兼ね備えたフィルムとして、カーラッピング(主にカラーチェンジ)用の豊富なカラー・デザインを揃えた「Supreme Wrapping Film(シュプリームラッピングフィルム、SWF)」シリーズや、法人車両の広告、レーシング車両の装飾などに使われるインクジェットメディア「MPI」シリーズなどを中心に国内市場に浸透。大手メーカー品の高単価・高品質な製品やDIY用なども含めた安価で粗悪な海外品など多様なフィルムが流通する中、「貼りやすくかつ高品質なフィルム」として支持され、実際プロの中でも「最初にエイブリィのフィルムから施工キャリアをスタートした」という人も少なくありません。

優れた施工性は、施工者だけでなくラッピングを依頼する側にも恩恵があり、施工時の失敗リスク抑制や施工時間の短縮は施工価格の抑制にも繋がります。ラッピングが一定程度根付いてきた今日でこそ、厚めで見た目の質感に優れる製品やより安価な製品という選択肢も一層広がりつつありますが、その中でも施工性・品質・コストのバランスよく安定感あるエイブリィ・デニソンは主要ブランドの1つであり続けています。

貼る技術だけではない! 独自認定制度

そして品質に加えてもう1つ、エイブリィ・デニソンが業界内でも高い評価を得ているのが独自の認定制度です。

ラッピングに限らず、コーティングでもカーフィルムでも、資格や認証、認定などブランドや製品ごとに様々な認定制度が展開されています。ただ、どれも公的なものではなくメーカー独自規格で業務独占的な要素(その資格がないと業務を営めないといったもの)はなく、加えて業界内では「受講すれば(お金を払えば)取得できる◯◯の認証・認定は品質・技術の証にはならない」と言われているような認定・認証システムも少なくありません。

その中でエイブリィ・デニソンの講習・認定制度は、施工技術、知識の両面を実技・学科を通じて測るもので、業界プロでも不合格となるケースも珍しくありません。その対象項目は、貼る際の熱の加え方や伸ばし方、スキージング(圧着)の力の掛け具合といった施工に関する技量をはじめ、粘着剤への影響を防ぐための施工前の適切な車両クリーニング、施工後に良好な状態を保全するためのメンテナンス方法にいたるまで、多岐にわたります。加えてフィルム(粘着剤や表面など)の品質や保管に関して、インクジェットメディアでの印刷に関してまで、一言に「カーラッピング」といってもそのノウハウは膨大。これを認定された同社認定施工者は、施工技術からフィルム特性への理解まで「高品質なカーラッピングを提供できるノウハウ」を推し図る1つの目安になっています。

  • ジーマイスターで開催されたエイブリィ・デニソンのカーラッピング講習
    実技・筆記のテストを要件とした厳格な認定制度。公認トレーナーはさらに少ない

現時点で日本における認定施工者は全国で50人程度。決して多くはないので自宅近隣に認定施工者が見つからない場合も少なくないでしょうし、エイブリィ・デニソンの認定を持っていなくても高品質で綺麗に仕上げてくれる施工者・ショップももちろんいますが、「ラッピングのお店選びで失敗したくない」という人は1つの参考にしてみてはいかがでしょうか。

▶︎エイブリィ・デニソン認定者一覧

フリートマーキングにも期待 国内市場の展望

同社では2009年以降、フィルム特性や施工の基礎を学ぶ初級者向けワークショップや少人数制の中級者向け施工講習会など、認定試験以外にも日本のプロを対象としたセミナーを継続的に実施。コロナ禍で休止しましたが、23年3月から再開しました。
3月24〜26日には、神奈川県のジーマイスターを会場に再始動後第1弾となる講習会を実施。認定施工者の中でも5人しかいない認定トレーナーの山口孝二代表が講師を務め、ラッピングのイロハを指南。今後も継続的に講習会が予定されています。

  • ジーマイスターで開催されたエイブリィ・デニソンのカーラッピング講習
    エイブリィ・デニソン公式のプロ向け講習会の模様

実はエイブリィ・デニソンの製品使用者に限らず、日本のカーラッピング業界内では「単純に貼れるだけでなく、多岐にわたるノウハウを押さえて高品質に施工できる施工者は数える程」とも言われています。そのため、あまり表立って情報は出てきませんが、「納車後にフィルムの浮きや剥がれ、縮みといった症状が想定以上に出てきた」「剥離が粗雑で塗装面を痛めた」といったものをはじめラッピング施工にまつわるトラブルは実は少なくないのが実情のようです。そうした中だからこそ、「安く貼れる」だけでなく「安心感・信頼性を伴うラッピング施工」を指南する同社の講習会は、ラッピングが日本に上陸して10年以上が経った今なお果たす役割は小さくありません。

さらに、個人のカーオーナーが楽しむカラーチェンジでも一定のシェアを誇るエイブリィ・デニソンですが、目下さらなる市場拡大が期待されているのがフリートマーキングです。
というのも、同社のようなプロ用製品の後押しもあり日本でも一定程度広まってきたカーラッピングですが、施工価格の相場的に個人車両の需要の多くは高級車やスーパーカーで、まだまだ身近なカーケアサービスとは言い難いのが現状。その一因には、洗車好き・綺麗好きともいわれる国民性があるとの見方もあり、細部にいたるまで仕上がりの綺麗さを求めるニーズが施工費を押し上げ、結果的に「カーラッピングが一部富裕層のためのサービスに留まる」という特殊な市場環境を作ってしまっている側面があるそうです。

一方、そこまで細部の仕上がりを気にされないのが、デザイン出力されたインクジェットメディアを貼る宣伝用途のフリートマーキング。もちろん浮きや剥がれなども抑えられるに越したことはありませんが、それよりもデザイン全体が綺麗に見えるか、隣接パネルの継ぎ目でデザインが崩れないかといったことの方が優先されるため、施工時間も短くて済むそう。加えて日本では海外に比べると法人車両のフリートマーキング(宣伝活用)自体がまだ広く浸透しておらず拡大する余地が大きいこと、また印刷・プリンターが進化して出力できるデザインの幅が広がるとともに鮮明になってきたことなどを要因に、エイブリィ・デニソン・ジャパンでもまだまだ成長余地は小さくないとみています。

  • ジーマイスターで開催されたエイブリィ・デニソンのカーラッピング講習
    日本での市場成長が期待されるインクジェットメディアを使用したフリートマーキング

同社や認定トレーナーらでは、こうした日本市場の動向も踏まえた講習を今後も実施。こうしたフィルムメーカーや施工ショップのほか、ショップが中心となって活動する協会も精力的に活動しており、日本という特殊市場で今後どのようにカーラッピングが広がるかが楽しみです。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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