日本人は損している! メーカーに聞いたカーフィルムの有益性…市場・機能編

ファースト女性社員
カーフィルム

前回の「メーカーに聞いた! ゴーストフィルムの現実と展望…車検・法規編」で、可視光線透過率測定に関してを中心に「カーフィルムを貼っても大丈夫な理由」を話していただいた「ゴースト」シリーズ生みの親であるブレインテック宮地聖代表。後編として、ゴーストに限らずカーフィルムを「そもそも貼った方が良い理由」を教えてもらいました。国内では見た目や車検に関する議論が続く中、「カーフィルムを貼らない・貼れないことで損をしている」実態があるそうです。

ブレインテック宮地聖代表取締役。1998年創業。カーフィルム施工店を営む傍、2000年代後半から輸入フィルムの販売を開始。2010年代中盤からゴーストの自社開発をスタートし18年に上市した。フィルム開発・セールスだけでなく、趣味でチューニングやラリー競技に参加するなどカーエンスージアストの顔も持つ。

日本人が損なっている安全性と快適性

高いデザイン性が特徴のゴーストもですが、カーフィルムというと未だにスモークを含めた「見た目」「ドレスアップ」が着目されるように見受けられます。改めてカーフィルムの利点を教えてください。

カーフィルムの利点として一般的に3つが挙げられています。「飛散防止による安全性」「UVカット・遮熱による快適性」「スモークによるプライバシー性」の向上です。フロントガラス・運転席・助手席は運転に支障ない視界を確保する必要があるため、3点目のプライバシー性は関係ありません。なので、フロント3面では「安全性」と「快適性」。
前回述べたような“不都合な車検運用”もあって日本ではフロント3面へのフィルム装着がしづらい環境なので、この本来享受できるはずの「安全性」と「快適性」が損なわれているのです。

飛散防止は本来、運転席付近ほど重宝しそうですね。

そうなんです。特に競技走行の経験者は分かるかと思いますが、高速走行中に飛来物やアクシデントでフロントガラスに大きな衝撃が加わると、中間膜より内側のガラスが飛散します。反射的に目を瞑らざるをえませんが、その間にもクルマは高速で前方に…。飛散防止の機能こそ、安全性を少しでも高めたいならフロントガラスに与えるべき機能だと考えています。

安全性という面だと、「クリアな視界」の確保も議論になりがちですよね。ゴーストは外から見えない、といった声もありますが…。

よくお問い合わせもいただく「アイコンタクトができない」という点ですが、弊社が道路交通法・道路運送車両法の所管省庁である警察庁・国土交通省に確認したところ、反射で中が見えにくいことやそれでアイコンタクトができないことには何ら問題がないとのこと。そもそもアイコンタクト自体を規定する法律もなければ、所管省庁として推奨もしていないそうで、意思疎通に関しては方向指示器など法律で規定された方法をとるべき、というのは私も同様の見解です。

「外からの見え方」は不問ということですね。「中からの見え方」はどうでしょうか?

前回に述べた可視光線透過率70%以上の確保は前提となるのですが、実は一部のゴーストはそれに加え、安全な視界を確保するための機能を盛り込んでいます。それが「防眩」という眩しさを抑える機能。紫外線から可視光線のブルーライトまで、波長でいう300〜450nmを反射させることで、夜間やトンネルなどの暗所での視認性を向上させたり、対向車のヘッドライトの眩しさを抑えたりします。これは多積層の構造と特許取得した防眩技術を組み合わせて実現。青色などの発色もこの構造のせいですが、実は見た目だけでなく機能的で、かつ技術自体も先進的なものなんです。

危険視されることも少なくないゴーストですが、むしろ安全サポートアイテムでもあると。

私自身スポーツ走行も嗜むので、安全に直結する視界の確保の重要性は理解しているつもりです。製品にもよりますが、少なくとも弊社がフロントへの施工を想定して販売しているものは、危険なものではなくむしろ安全性向上に寄与できると考えています。
それとカーフィルムの大切なもう1つの機能が遮熱・UVカットですね。カーフィルムが普及する諸外国では、多くのカーオーナーがこれを求めてカーフィルムを貼っています。

装着率も性能指標も先を行く海外

中国イベントでのブレインテックブース

「日本はカーフィルム後進国」という言葉も見聞きします。実際海外の市場はどのような感じなのでしょうか?

国によって法律・規定や普及率は異なりますが、お隣韓国では9割以上といわれていますし、アジアや北米諸国では概ね広く普及しています。日本と同様、フロント3面は透過率70%以上を規定されている国もあるのですが、定期的な車検がなくて実質70%を下回ったフィルム装着車が走り回っている市場もあります。

その多くがUVカットや遮熱目的なんですね?

太陽光の有害な部分にどのぐらい対策するかといった意識そのものが断然強いように思います。カーフィルムに限らず例えばスポーツのシーンでも、海外では紫外線対策や視界改善策としてスポーツサングラスが割と一般的ですが、日本ではまだこれからといったところもあるのではないでしょうか。そのぐらい、地域によっては紫外線による健康被害は重要視されていて、実際に紫外線の目や皮膚への有害性は軽視できるものではありません。UVの1点をとっても、カーフィルムを貼っていない日本のカーオーナーは不利益を被っているのです。

遮熱に対しても海外の方が進んでいるんでしょうか?

カーフィルムが浸透している国・地域での遮熱への意識はとても高いです。例えばアジア圏では、高性能遮熱フィルムが1つのステータスアイテムとして捉えられていてブランドロゴを見える形で貼り付けるのが主流な国もあります。
そうしたフィルムの高い装着率もそうですが、遮熱性能を比べる指標・情報が揃っている点も日本より先行している部分ではないでしょうか。日本では、遮熱性能として「IRカット率」が示されることが多いですが、実際太陽エネルギー全体からすると赤外線(IR)領域は約53%で、他は可視光線(VLT、約43%)や紫外線(UV、約4%)。加えて全体の半分に過ぎないIRの「カット率」も、780〜2500nmのどこをどのぐらいカットするかの計測方法が統一されていないのです。

「IRカット率が高い=遮熱性能が高い」ではないんですね。海外では違うんですか?

例えば英語圏では、遮熱性能の1つの指標として「TSER」が使われています。Total Solar Energy Rejectedの略称で総太陽エネルギー除去率といった意味。IRとVLT、UVの総エネルギーをどのぐらいカットするかという指標です。海外でも赤外線カット率(IRERやSIRR)の表記はあり、様々な測り方・数値が出回っているのは海外も一緒。ただ、同時に「そういった違いもあるからフィルム選びの際は気をつけてね」といった情報も英語ではウェブで簡単に見つかりますので、流通する情報の質・量という点で1歩先を行っているイメージですね。
実は日本でもIRカット率とは別の遮熱効果を表す指標はあるんです。日本産業規格(JIS)で規定されている「遮蔽係数」で、3mm厚の透明板ガラスの流入熱量1.00を基準に、数値が小さい程日射熱をよく遮ることを表します。IR・VLT・UVひっくるめた日射熱の遮蔽度合いを見ることができ、しかも単なる日射透過率とは違ってガラスが一旦吸収して再放出する熱も計測対象なので、「吸収率(反射率)の違いによる遮熱の性能差※」も反映してくれる優れた指標と見ています。ただ、建物ガラスなどでは重要指標として活用されているのですが、カーフィルムでは…。
※日射透過率が同じ場合、吸収率が高い(=反射率が低い)ガラスの方が、吸収したガラスからの再放射が温度上昇に影響するため遮蔽係数の数値は大きく(=遮熱性能が低く)なる。

日本で遮熱性能への関心や普及が進まない理由は何かあるんでしょうか?

大きく2つ理由があると思っていて、1つは前回お話しした可視光線透過率の測定の問題。そもそも可視光線透過と太陽光遮断(遮熱)はトレードオフの関係で、クリアな視界を確保しつつ高い遮熱性能を実現することは科学技術的にとても難しく、世界的にも最先端の研究領域です。海外では透過率の規定自体がなかったり、車検がなく実質70%を下回っていても問題なかったりで遮熱性能を追求しやすい環境といえますが、日本では高い遮熱性能(=低い透過率)のフィルムはほぼ貼れないのが現状です。
もう1つは、あくまで憶測ですが、「お天道様」の言葉に表されるような日本固有の太陽信仰という、太陽を遮ることへの潜在的な心理抵抗があるのかな、と。

遮熱アイテムとしてのフィルム普及もハードルが高いんですね。ただ、遮熱性能への関心は高まっているように感じます。

近年は自動車メーカーなども高い関心を示していますね。特にBEVが普及してきた今、エアコン効率が電費=航続距離に直結するため、エアコン効率向上のための一手段として窓の遮熱性能向上に今まで以上に注目が集まっています。
その代表的なのが、メルセデスベンツの上級モデルに純正採用されている遮熱発色ガラス。海外のガラスメーカーが製造していて、独自に仕入れて研究してみたのですが、遮蔽係数が0.5と極めて高い遮熱性能でした。遮蔽係数は日射熱量をどのぐらい遮るかの指標で、素ガラスが1.0、小さいほど高い効果を示します。可視光70%を確保しつつ0.5という数字は驚異的で、現在の技術水準では先端の高性能ガラスといえるでしょう。

欧州車の上級グレードを中心に採用が進む熱反射ガラス

発色は遮熱性能を追求した副産物

メルセデスのガラス、青紫っぽく反射して見えるところはゴーストに似ています。

メルセデスベンツのガラスは金属スパッタコーティングが取り入れられていますが、反射の原理はゴーストと同じ多積層構造によるもの。エネルギー量が多く可視光線透過率に影響の少ない波長を反射させて遮熱するアプローチで、その副産物として発色が生じている点も同様です。
もちろん、輸入車だからOKといった特例ではなく透過率は70%以上で日本の保安基準にも適合しています。難点は高い技術力ゆえに製造コストも高い点で、高級輸入車メーカーの中でも上位モデル・グレードにしか採用されていないことからもそれが窺えます。

構造が似たゴーストを貼れば、高級車ガラスの高性能遮熱を再現できるということでしょうか?

正直なところ、現状では難しいです。「レイスオーロラ72(AR72(WRAITH))」という製品が比較的近いスペックを実現しているのですが、純正ガラスに貼り付けて透過率70%は厳しく…。最近は純正ガラスの透過率が高くなく、日本の環境だと貼れるフィルムの選択肢が多くありません。
ただ、いずれのゴーストも遮熱を追求して開発した製品には変わりありません。特に今年1月に特許を取得した国産の「IRピュアゴースト」は、多積層構造による反射とIR吸収剤を組み合わせ、多くの車両に貼れる高い透過率と遮熱性能を両立させました。

ゴーストフィルム
ゴーストフィルム・レイスオーロラ72(AR72(WRAITH))

法的根拠のある測定は業界初なんですね。その安心感はカーオーナーにとってもメリットだと思います。そもそもLGSはなんで立ち上げたのでしょうか?

簡単に略歴から話しますと、実は元々はメーカーではなくフィルム施工業を営んでいました。ただ、2003年の道路運送車両法の改正やプライバシーガラスの普及などを受け、徐々に輸入フィルム販売や建物領域に事業をシフト。しばらくはクルマと離れて事業を続けていたのですが、海外の動向も見聞きするうちに「どうして日本では貼れないんだろう」という疑問が頭に浮かびました。そこで2015年頃、前回お話しした車検の実情やフィルムの光学に関する調査・研究に着手したんです。

発色系フィルムが流行り始める少し前ですね

日本では2018年頃から他社製品含め本格的に流行り始めたように記憶していますが、実はアジアなど一部の国では2016年頃に出回り始めていたんです。ただそれは正式なメーカー品ではなく、大手メーカーが製造する多層遮熱フィルムのB品。本来透明で発色も見えないはずが、品質不良で発色して見えてしまう偶発的な不良品だったんです。
それがデザイン性の面でアジアのストリートシーンでムーブメントとなり、これを作れたら面白いな、と。国内で販売できるように透過率や発色を調整し、元製品の特許有効期限が消失した2018年1月から製造・販売をスタートしました。

当時から自社開発だったんですか?

発色系フィルムに関しては輸入販売せず、PET基材から接着剤、トップコートまで私が企画・開発しました。製造自体は海外工場にも依頼していましたけどね。
1つ難点だったのが、反射の色合いや可視光線透過率などフィルムの品質が安定しなかったこと。それだけ高度でギリギリなところを狙っている製品設計なのですが…。
そこで21年、国内大手メーカーの王子ホールディングス様への製造委託が叶い、国産品質のピュアゴースト販売に至りました。フィルムや粘着加工、光学特性など幅広い産業資材分野における同社の開発力・製造力は高く、ピュアゴーストシリーズは設計、構造、製造品質ともに世界に出しても負けない一級のカーケア製品だと自負しています。

ゴーストフィルム
王子ホールディングスのイベント展示ブースに並ぶ自動車用ウインドウフィルム

発色は遮熱性能を追求した副産物

見た目が派手なだけではなく、素材技術的に優れた製品なんですね。ちなみに前述の遮熱性能は?

これからの開発課題の1つです。先にも述べた通り、高い透明度と遮蔽能力の両立は研究課題。現状のピュアゴーストも決して最終系ではなく、もっと性能を追求できると考えていますし、遮熱性能を向上させたバージョンを開発中です。

日本でもこれからカーフィルムは普及するでしょうか?

正確な数字がある訳ではありませんが、現在日本のカーフィルム普及率、特にフロント3面については1%未満では、というのが個人的な見解です。100台に1台も貼っていない計算です。これが海外並みの9割というのは難しいにしても、年間販売台数約900万台(※22年の乗用車・軽自動車の新車・中古車合計)の5割が装着するだけで、市場規模としては年間1300億円に上るような一大産業になります。
そして広く普及するカーフィルムは、全てがゴーストである必要は全くないと思っていますし、例えば弊社でも透明遮熱タイプも多数販売しています。昨年末に発売した「サステナクリア」などはリサイクル材料が原料で、遮熱カーフィルムとして初めてエコマーク認定を取得したユニークなアイテムです。
メーカーとしては、こうした多彩な「製品の開発・販売」と、それを適切に扱ってもらうための「施工・車検の啓蒙」の2つのアプローチで、引き続きカーフィルムの普及に働きかけていきたいと考えています。

高い遮熱性能を装着するためには、一オーナーとしては可視光線透過率の緩和にも期待したいところです

可視光線透過率が今の70%よりも緩和、例えばPT-500の製造元が公表している測定公差±3%でも緩和されれば、今のクルマの純正ガラスに貼れるフィルムは大幅に増えます。ただ、現在のゴーストシリーズの多くはあくまで70%厳守を念頭においた製品設計。数%の緩和だけで遮熱性能の高い海外製も貼れるようになってしまうの、実はメーカーとしては緩和されない方が嬉しかったりも…笑
ですが、「日本でカーフィルムの有益性を受けられないのはもったいない」というのが私が現在事業を展開する根底のスピリット。規制緩和も含め、多くのカーオーナーが安全で有益にカーフィルムを楽しんでもらえるようにしていきたいですね。

中国イベントでのブレインテックブース

前後編にわたってご紹介した話題のゴースト開発者の本音。車検という独特な制度も相まって、日本のカーフィルムの市場環境がいかに特殊か、流通する製品・情報が限定的か、を教えていただきました。
すでにこの市場環境が20年以上続き、市場変化も少ない中、製品特性にしても車検対応への提唱にしてもプロ・一般問わず議論を呼び起こしたブレインテック社とゴーストは紛れもなく業界における1つのエポックメイキング。この議論をトリガーに普及に向かうのか、現時点が国内カーフィルム市場の1つの分水嶺といえそうです。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

プロフィール

関連記事一覧