むしろ堅実な仕事? 若者から見たディテイラーの魅力@ファースト

ファースト女性スタッフ
カーフィルム

情報化社会で育ったことや価値観の多様化などを一因に、「仕事よりもプライベート」や「やりがいよりも働きやすさ」なんて言葉で表されることもある今の若者の仕事観。一方でディテイリング業も含めたクルマ関係の仕事は「好きが高じて…」という人も多く、若者のクルマ離れも叫ばれる今日では高齢化や人手不足が残念ながら進行中。
そんな相性の悪そうな今の「若者×カーディテイリング業」ですが、神奈川県厚木市のファーストでは20代の2人、それも女性が現場で腕をふるっています。話を聞くと、今の時代だからこそ若者の目に映るディテイリング業の魅力があるようです。

今回お話を伺ったのは、2021年入社で20代後半の紺谷彩乃さん(トップ写真右)と20年入社(正社員は22年)で20代前半の山田陽菜さん(同左)。2人とも普段は洗車やルームクリーニングをはじめ、ポリッシャーを操っての磨き・コーティング施工など現場での施工業務に勤しんでいて、紺谷さんはカーフィルム施工も。新車ディーラーや中古車販売店などへの単独での出張施工もしており、2人ともフロントや事務といった間接部門ではなく一ディテイラーとして同社の施工事業を支えています。紺谷さんは20系セルシオなど“角ばったセダン”好き、山田さんはクルマには全く興味なし。

前職は全くの異業種 コロナ禍もきっかけの1つに

そもそもお二人はなんで今の仕事に入られたのでしょうか? 経緯を教えてください。

紺谷さん:前はアパレル業界にいてショップ店頭で販売やスタッフマネジメントをしていました。昔から「カッコいいなぁ」ってずっと憧れていたブランドで、服飾系の専門学校を卒業してからは店舗を統括する立場にまでなって頑張っていたのですが…。ただ残念ながら時代のトレンド的に決して業績は好調ではなく、路線変更などもしていたのですが最終的にはコロナ禍も相まって20年に店舗全店が閉鎖。好きで働いていたので別ブランドで働く意義も見出せず、そこが転職のきっかけです。

山田さん:私は正社員で働いた経験はなく、専門学校を卒業してファーストに入社しました。学生時代に飲食店でアルバイトしていたのですが、コロナ禍でシフトに全く入れなくなってしまい…。月の給与が1万円を切るような事態で、家族に相談して父が経営するこの店で働かせてもらうことになったんです。当時は学校もあったので土曜のみのアルバイトとして「とりあえずやってみようかな」という感覚。親の会社に入るとは夢にも思っていなかったし、コロナがなければ一生働くことはなかったと思います笑

お二人とも「クルマが好きで」というわけではなく「働き口の1つ」という理由が大きいんですね。山田さんはご家族の繋がりでということですが、紺谷さんはなぜディテイリング業を選んだのでしょうか?

紺谷さん:出身が横須賀でアパレル時代も横浜勤務だったのですが、退職後に個人的な都合で厚木に引っ越すことになり、この地域で仕事を探していたんです。ただ、基本的には事務とか受付といったアパレル以外の求人に応募していました。

専門学校を卒業されて店舗マネジメントまでされたのに服飾ではなく異業種を探したんですか?

紺谷さん:転職時の面接でもそこを突かれることはありました笑。でも、アパレルは華やかな世界ではあるんですが結構ブラックな面もあって…。開店前からヒールで立ちっぱなしで、閉店後の裏方業務を終えるのは深夜。連勤が多い割に給与も…。店舗の各スタッフに売上が課せられていた時は女性スタッフ同士のピリピリした空気感も負担でした。
憧れのブランドで5年間務めたので別業界で、という転職活動だったので、ディテイリングに絞っていたわけではないのが正直なところです。ただ、元々クルマは好きで友達のクルマにフィルムを貼ったこともあったので、その中で求人情報を見つけたファーストに応募しました。

山田さんも専門学校に通われていたとのことですが、専攻や目指していた業界はあったんですか?

山田さん:専門学校は美容系で美容部員を目指していました。自分が好きな海外のコスメブランドに就職したいなぁって。ただ、途中でそれがかなり狭き門ということが分かって、コロナ禍で競争も激しくなっているようで、途中でネイルのコースに変更したんです。でも、他の学生の方がネイルへのモチベーションが高いのをなんとなく感じていましたし、仮に就職しても店舗スタッフは薄給激務、独立できるのもほんの一握りらしく…。実は卒業してからすぐには仕事に就かずどうしようか悩んでいたんですが、夏頃に観念して9月に正式にファーストの社員にならせてもらいました。

  • ファースト女性スタッフ
    現場で施工業に勤しむ2人

ホワイトな職場環境を求めて

紺谷さんは一度その道を歩んだからなおのことかもしれませんが、お二人とも好きややりがいなどには引っ張られない現実的な仕事観ですね。ディテイリング業は合致したんでしょうか?

紺谷さん:前職が帰って寝るだけが続いたので、転職時に休日数やプライベート時間を取れるかを優先的に探していました。今は残業も繁忙期以外はほぼなく、土曜は仕事ですが日曜は休みでしっかり自分の時間を確保できるのでホワイトです笑。時間の次に重視していた収入も、求人情報で分かっていて自分的には希望に叶うものでした。

山田さん: 私も給与面や労働時間は重視していました。ネイル関係の話を聞けば聞くほど、終電までの残業とか掛け持ちしなきゃいけない程の給料とか、仮に就職しても続けられるのかなぁって…。そんな葛藤がある中で卒業を迎えてしまって、アルバイトしていた今の職場の先輩方が「正社員で一緒に働こうよ」と声をかけてくれて。

紺谷さん:求人広告やウェブサイト、SNSの画像などで職場や人の雰囲気がなんとなく分かったのは私もありがたかったですね。面接した時点ですでに陽菜ちゃん(山田さん)がアルバイトで働いていて、SNSで見たその姿も後押しになりました。

山田さん:彩さん(紺谷さん)が来てくれたのは私も嬉しかったです! 多分ただ「同年代の女性」だけだとむしろ合わない場合もあるかもしれないんですけど、同年代でなんとなく趣味も合いそうで。入社後からすぐに仲良くしてもらえましたし、今も一緒に休みの日に温泉旅行に行ったりもしています。逆に彩さんが居てくれなきゃ早い段階で「もういいかな」ってなっていたかもしれません笑

人間関係も仕事観で欠かせない要素の1つですね。今の職場は仲良さそうに見えますが?

紺谷さん:陽菜ちゃんだけでなくみんな話しやすくて人間関係は本当に良かったと思います。社長は出張施工に出てしまうのが多く、技術についてはフィルムも磨きもなんでもできるベテランの先輩社員さんがいて、その方に教わることが多かったです。

山田さん:私は父(社長)から『身内に甘いと見られないためにも、身内だからこそ厳しくするよ』というのは事前に言われていて、実際厳しいです笑。今は同じ家に住んでいるので、たまに帰りたくないなぁって思う日も…笑

紺谷さん:社長細かいもんね笑。基本「見て学べ」的な感じで教えるのはあんまり上手くないかも笑

  • ファーストのスタッフたち
    ベテランから若手までが在籍しつつも柔らかな雰囲気の施工現場

店の信頼つくる厳しい品質管理

社長厳しいんですね笑。仕事はどのように覚えていったのでしょうか?

紺谷さん:元々カーフィルム志望で入ったのですが、「思っていたのと違う」というのが最初の印象でした。入社前にフィルムを貼ったことがあったと言っても、量販店で売っているカット済みの市販品をとりあえず貼れれば良いという感じで、ヘラとかも使っていなくて。入社して見たプロの施工はそのDIYとは全然違って、使うフィルムも違うしゴムモールに入れ込むような細部の処理も細かいしで、失敗しながら「こんなに難しいんだ」って。途中から「磨き(コーティング)も覚えたら」とのことでやり始めました。

山田さん:私は当初はアルバイトだったのもあり、ルームクリーニングや洗車がメインで。元々クルマに興味なかったので洗車1つでも「ここまでやるの?」って思いました笑。高級車相手の磨きもとてもコワかったですし…。ただ、彩さんがフィルムに加えて磨きも覚え始めた頃に「紺谷さんがやるんなら」って感じで始めて、最近はドアカップとかエッジなど部分的なプロテクションフィルムの施工も徐々にやっています。社長は磨きとかはそこまで細かくない気もするんですが、特にカーフィルムへのこだわりはスゴいですよね笑

紺谷さん:例えばヘラの研ぎが甘くてヘラで擦って入ってしまったキズとか、糊面に噛んでしまったゴミとか、私としては「でもギリOKなラインかな」って思うものでも社長からNG・やり直しを言われることは全然あります。でも逆にその水準を日頃から見せてもらっているので、他店さんで貼られたフィルムなどを目にした時に「このクオリティでいいの?」って思うこともあります。

山田さん:最近は磨きの入庫が忙しくなってしまったので一旦途絶えてしまったのですが、今年の始め辺りは私もカーフィルムを習い始めたんです。ただ、結構ボロクソに言われてしまい…笑。でも今後は私も磨きだけでなくフィルム施工も覚えていきたいです。

紺谷さん:社長の指摘に不満を抱くことがないっていったら嘘になるけど、社長が細かくいうから会社の仕事として信頼されている部分があるということは理解しているつもりです。社長から「店からしたら毎日施工する中の1台だけど、お客さんはお金を払ってお願いした大切な1台。自分がお客の立場だった時に満足できるレベルかを意識して」というのは常々言われているので、毎回“フィルムと格闘”って感じですし、貼り終えると気持ち的に疲れたーって笑。今はカーフィルムでもリア5面の施工がメインで、その中でも最後の1枚で失敗したり社長NGになったりがあるので、まずはリア5面を失敗なく貼り切れるようになるというのが直近の自分の中の目標です。

ホワイトな職場でも厳しいところは厳しいんですね。

紺谷さん:私自身が言われて凹むこともありますし、陽菜ちゃんには特段厳しく接しているかもというのは側から見てても。でも社長の施工って見れば見るほど、たまに本当にゴミ噛みが全くない!っていうのもあるぐらいスゴくて、それに比べると自分がまだまだ全然なのは自覚しているんで…。

山田さん:私は出張よりも店舗内で作業することが多く、社長も出張施工が多いので出張に出てしまえば店舗内は平和です笑

  • ファーストのカーフィルム施工
    ツール、フィルム、処理の細かさと全てが異なるプロのカーフィルム施工

やりがい? よりも現実的な将来観

ほかに仕事で大変なことはありますか?

紺谷さん:夏は暑くて冬は寒いことですかね。あとフィルムの施工液が肌に合わなくて手荒れをしてしまって、かといって手触りが鈍るので手袋もしづらいっていうのはあります。けど、前職と比べると体力的にも全然楽で休日も安定していますし、大きな不満はないですね。

山田さん:土日休みの友達が多いので、土曜も休みだったらなぁって思うことはあります。でも月2日の公休や有休もありますし、残業がほとんどないので土曜夜からもう遊びモードです笑

逆にこの仕事をやって良かったと感じる部分はありますか?

山田さん:ルークリとか洗車とか、汚かったところがキレイになると「めっちゃキレイになったー」っていうやった感はありますね。ビフォーアフターの写真撮るとなおさら実感します。

紺谷さん:フィルム施工だと、女性が珍しいので「貼れるの?」って目で見られます。怪しむような視線で凝視されると緊張してしまうのですが、逆に「女性でスゴいですね」って言ってくださるとモチベーションにも自信にもなりますね。一般のお客様もそうですし、中古車販売店や新車ディーラーさんといった出張先でもみなさん良くしてくれています。

山田さん:彩さんについて行って2人で出張施工行った時とかも「バイバーイ」って見送ってくれたりお菓子くれたりしましたよね笑。会社戻って社長やスタッフにそのこと話すと、「俺らはそんなことしてもらったことねえぞ」って笑

役得ですね笑。将来的に今のお仕事を続けられるのでしょうか?

紺谷さん:私は元々クルマが好きでフィルムも磨きも好きなのですが、年齢的に中途入社ということもあるので、「一生をかけて施工技術を極めたい」っていう想いはあまり…。実は今結婚を考えていて、出産に直面した時にどうしようか、っていうのがあります。

山田さん:私も将来的に仕事でどうなりたいっていうよりも「結婚したいなぁー」っていうのが本音です…笑。やれなかった美容系の仕事も頭の片隅にあって、結婚して生活が安定したら挑戦してみたいかも、と考えることも。どちらにしても専業主婦は向いてなさそうなので、結婚しても仕事は続けると思います。

紺谷さん:私も前職退職後に一時仕事していなかった時期があるのですが、あまりに暇すぎて多分仕事していないとダメなタイプなんで、仮に妊娠・出産でファーストでの施工が難しかったとしても何かしら働き続けるのかなぁと思います。社長には前例がないと言われたので、今産休・育休の制度とかも確認してもらっています笑

将来観も地に足ついた展望ですね。高級車もたくさん入っていてクルマ好きが集まりそうなイメージですが、人間関係含め1つの仕事・職場として働きやすそうというファーストさんの魅力が窺い知れました。本日はありがとうございました。

  • ファースト女性スタッフ
    互いに欠かせない同僚となっている山田さん(奥)と紺谷さん(手前)

「クルマ好きが好きでやる仕事」「職人気質で厳しい職場環境」といったイメージも残るクルマ関係、特にオートアフター関連の仕事。でも今回のお二人のように、むしろ好きなことを離れて労働条件が叶う仕事の1つとしてディテイリング業を選ぶケースも。
そして、お二人とも決して「楽だけしたい・権利だけ主張する」と揶揄されるような若者像ではなく、むしろ仕事に対する姿勢は実直そのものなのもポイント。山田さんを向かい入れた先輩スタッフの声がけや、紺谷さんの入社面接を担当した齋藤取締役の「当時はギャルだけどどうしようって社長と話していましたが、来てくれて良かった」という言葉にもお二人への信頼の高さは表れており、こうしたスタッフ1人1人の仕事への真面目さが良好な職場環境や会社の信頼を築いているようです。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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