フロント3面は可視光線透過率測定が必須…カーフィルム業界団体が公式見解
カーフィルムの施工店らで構成する日本自動車用フィルム施工協会(JCAA、濱田浩光会長)と、その上位団体でフィルムメーカーらで構成する日本ウインドウ・フィルム工業会(内海貴洋理事長)の2団体は8月(文書は7月付)、2023年1月に国土交通省から出された事務連絡を受けての公式見解をそれぞれ公表しました。国交省の事務連絡は、指定工場への周知を目的に、フロント3面へのカーフィルム装着車の車検における取り扱いを示したもの。今回の2団体の公式見解は別文書ではあるものの、「フロント3面(フロントガラス/運転席・助手席)にフィルム施工をしたガラスは全て計測が必要」と共通した内容を記しています。
各団体の公表内容の詳細はそれぞれ以下の通り。
工業会(8月8日掲載)は、国交省の自動車局整備課や車両基準・国際課と面談した結果として、法令遵守の観点からフロント3面に施工する都度、国交省公表の仕様を満たす可視光線透過率測定器で測定を行うとの見解。その根拠として、道路運送車両法の保安基準第29条の細目告示117条に従いフィルムを貼付しているガラスは全て測定が必要であること、また目視による判定行為が認められないことの2点を列挙しています。
JCAA(8月2日掲載)の資料でも大枠の内容は同様で、フィルム施工においては可視光線透過率測定器を用いて測定する対応をとること、また測定の根拠として同じく細目告示117条を根拠に、フィルム貼付ガラスは全て計測する必要があると示しています。
フロント3面へのフィルム施工にあたり、「PT-500などの基準を満たした測定器」での「測定が必須」という今回の見解は、これまでの業界慣習や車検の実情に比べると極めて厳格と捉えられる内容。ここ数年ブレインテックやIKCSといったフィルムメーカーではPT-500の有用性を提示し、JCAAの今年の総会でもPT-500を用いた測定に触れられていましたが、現時点では施工専門店でもディーラーなどの指定工場でもPT-500(旧型のPT-50含む)を保有する事業所の数は限定的と見られています。
その中でJCAAの方の見解では、「今後の対応」についても言及。「透明遮熱フィルムをはじめ施工後測定数値が可視光線透過率70%を超える多くのフィルムを施工することは可能と判断」としつつも、「現在の法律運用の中でのいくつかの課題を協議追求し、可能な部分は改善を目指」すとしています。
並行輸入車や改造車と同じ扱いの細目告示第117条
今回、両団体の見解の根拠として挙げられた細目告示第117条とはどういった内容なのでしょうか。
国土交通省が公表している道路運送車両法の保安基準を参照すると、そもそも保安基準には、各項目においてその細部を補完する「細目告示」が第1節から3節まで設定されています。カーフィルムを含む窓ガラスを規定する第29条では、第1節(細目告示第39条)/第2節(同117条)/第3節(195条)が定められています。
そして今回、この117条(第2節)に従うとしたのが、従来の業界見識と異なる点です。
この細目告示は、大まかには第1節が「自動車メーカーが製造する際の型式指定取得などの新規検査」、第2節が「型式指定を受けていない自動車などの新規検査(並行輸入車やカスタムカー・架装車両など新車時に持ち込み登録が必要な車両など)」、第3節が「すでに使用されている自動車の検査(継続検査や中古新規など)」という区分。一般的に通常カーオーナーの「車検」で適用するのは各保安基準のこの第3節になります。
そしてJCAA渉外委員会井上和也委員長によると、カーフィルムの貼り付けに関しても従来はこの3節を適用しての車検と認識されていました。ただ今回、工業会・JCAAが国交省の関係部署と意見交換を交わす中で、「“カーフィルムの貼り付け=型式指定を受けた新車とは異なる状態”との認識から改造車などと同じ第2節適用が必要」と指摘を受けたといいます。
実際、第3節の適用内容には「構造等変更検査を行う場合」や「自動車や部品の改造、装置の取付けまたは取外しなどにより構造、装置、性能に関わる変更を行う場合」は第2節を適用する旨が記載されており、国交省は「カーフィルムを貼り付けた場合は窓ガラスの項目(保安基準29条)に関して第2節(117条)を適用する」という内容を改めて指し示した形です。
現場に課題…規制緩和の可能性は?
今回の見解はあくまでフィルムメーカーや施工店らが構成する業界団体のもの。国交省からは1月の事務連絡以降に公式な通達はなく、指定工場や各運輸支局といった検査の現場でどこまで今回の見解通りに運用されるかは現時点では定かではありません。
ただ、道路運送車両法や保安基準は変わっていないものの、細目告示117条の適用やそれに伴う測定の必須化が今回改めて明示されたことは、フィルム施工や施工後の運用が厳格化されるという点で一次的には普及を阻害しうる要因になる可能性も。ただでさえフロント3面へのフィルム装着は、車検を巡って地域・事業者ごとに様々な見解・対応が横行するなどカーオーナーが不合理な不利益を被りうる実情もあり、国内の施工率は決して高いとはいえない現状。今回の見解通り、カーフィルム施工が「第2節を適用する程の構造・性能にかかわる変更」として車検も煩雑化すれば、カーオーナーにとってはカーフィルムが一層気後れする存在となってしまう可能性もあります。
その中でJCAAの井上委員長は、同見解通りの運用が実情に即しておらず、課題を含んでいることも示唆します。その一例として、保安基準に準拠した測定器とされるPT-500でも測定誤差があることや機器の校正・測定の仕方で測定結果に影響を与えうること、また近年の国産車などで純正採用されているUVコーティングガラスでは厳格な測定を実施した場合に経年劣化などでフィルム非装着でも保安基準の値を下回るケースが出てきていることなどを列挙。また前述の117条では、可視光線透過率測定の規格として協定規則43号という国際規格を用いているものの、正式な日本語翻訳が不在のため測定の仕方を厳密に定義する資料がないとの見方もあるそうです。
特にPT-500の測定に関しては、JCAA会員施工店での試験によると、5台のPT-500で同一車種・ガラスを測定した際、同じガラス面でも機器・測定箇所の違いによって最大1.9%もの差を確認。屋内外の気温差などによってはそれ以上に大きな数値差が認められたケースもあるとのことで、井上委員長は「このようなブレ幅を示す現状で、公差(±3%)を公に認めない“通り一辺な運用”は矛盾が生じる」と指摘します。
こうした諸課題を踏まえた上で今回の見解公表について、「一重に厳格化と捉えず、まずは一旦国交省が提示するライン(基準)に沿った業界側での法令遵守の姿勢を示し、その上で現実的な運用、健全な普及に向けた課題点を明らかにして運用の改善、規制の緩和などに向けた協議を図っていきたい」(井上委員長)と説明。JCAAでは、引き続き行政機関などとの意見交換を重ねつつ、足元では会員施工店でのPT-500導入・運用を推し進め、カーフィルム市場の拡大に取り組んでいく姿勢です。