JCAAビーパックス井上代表が新会長に…カーフィルム業界動向

カーフィルム

カーフィルムの施工者で構成する日本自動車用フィルム施工協会(JCAA)が5月14日に総会を開催し、新会長に京都市のディテイリングショップ「ビーパックス」の井上和也代表(旧渉外委員長)が就任しました。
JCAAによると、プライバシーガラス普及前の1990年代初頭に30%だった普及率が、現在では10%程度と低水準が続く国内のカーフィルム。井上新会長は中長期的な装着率向上に向け、新年度の取り組みとして法規制対応や情報発信の強化、それらに向けた組織改変などを掲げました。

可視光線透過率測定を巡る3年間 

JCAAは全国のカーフィルム施工事業者らで構成する業界団体で、事業者同士や上位団体である日本ウインドウ・フィルム工業会との情報交換をはじめ、国土交通省といった行政機関への働きかけなど、健全なカーフィルム市場の普及を目指した諸活動を行っています。特に近年では、自動車のフロント3面(フロント、運転席・助手席)ガラスにフィルム施工した車両の取り扱いを巡り、自動車関連業界への啓蒙に注力してきました。

従来からフロント3面は、道路運送車両法で可視光線透過率(VLT)70%以上と規定されており、カーフィルムを貼る場合も遵守する(貼った状態で70%以上を保つ)必要があります。
一方でJCAAによると、実際のカーライフの現場では、適合する車両でも「整備事業者や新車ディーラーなどでの理解不足」「不適切なVLTの測定(測定器の選定や測定の仕方など)」などを一因に、点検や車検で入庫を受け付けられない入庫拒否というカーユーザーに不利益となるケースが発生しています。
この中で2023年1月、国土交通省が「カーフィルム施工車両の車検時の取り扱い方法」を記した事務連絡(関連記事:指定工場でのフィルムの車検が変わる? 国交省が透過率測定に関して通達)を整備事業者向けに発信。これを受けJCAAでも、業界団体としての公式見解を作成・公表し、事業者向け展示会オートアフターマーケットEXPOでのセミナーなども通じて啓蒙に取り組んできました。

この流れを受けて井上新会長は、新年度の5つの重点施策の1つ目として「法規制対応と業界連携の強化」を掲げました。具体的には、前年度までに引き続き、車検・VLT測定といったカーフィルム施工の理解促進を図ることに加え、普及が進むADAS(先進運転支援システム)搭載車など高度化する車両への対応を表明。すでに一部のADAS搭載車ではフロントガラスへのカーフィルム貼付禁止が取扱説明書や整備マニュアルに明記されており、貼り手側の適切な施工を促すとともに、自動車や業界におけるカーフィルムの位置づけを明確にしていくとのことです。

また、他の重点施策では「暑さ・紫外線が厳しい沖縄県など特定地域での可視光線透過率の規制緩和」「現状10%未満の新車装着率の回復(段階的に20%、中長期的に30%)」「組織体制の刷新」が示され、5つ目には各施策も踏まえた「情報発信力の強化」を掲げました。情報発信では、ゴーストフィルムが人気を博すとともに光学特性や法規制にも精通するブレインテック宮地聖代表を渉外広報委員長に据え、JCAA公式サイトの刷新・運用活性化や各種メディアを通じた情報発信を図っていく方針です。

暑さ対策にどれだけ有効? 期待される“根拠” 

JCAA総会後には協会員向けの勉強会も開かれ、フィルムメーカー「リンテック」の芳賀氏や濱田浩光JCAA顧問(前会長)がカーフィルムの製品特性や市場概況、変遷などを振り返りました。
その中で、今後のカーフィルム市場拡大に向け、注目点の1つと示されたのが機能性です。とりわけプライバシー性やUVカットに比べ、夏場の車内温度上昇を抑える遮熱性能は、まだカーユーザーにおける認知度が低いと指摘。消費者意識の変遷も踏まえてカーフィルムのニーズが「ドレスアップから機能性へ」とシフトしており、“暑さ対策としてのサービス”として訴求することが、今後ニーズを掘り起こしていくポイントとして有力との見方を示しました。

一方で、遮熱性能を訴求する上では課題も残ります。
重点施策で掲げられた「沖縄県でのVLT規制緩和」からも窺える通り、現在の「VLT70%を確保できるカーフィルム」では遮熱性能に限界があります。実際、フロント3面に貼ることができる可能性が高いカーフィルム(いわゆる透明遮熱フィルム)は、メーカー問わずスモークやミラータイプに比べて遮蔽係数(透明板ガラスを基準とした太陽光の流入熱量を表すスペック)が0.8台と限定的。勉強会でリンテック芳賀氏も「ジリジリ感の軽減やエアコン効率の向上を訴えかけても、過去の実証実験結果を含めてそれら機能を数値化して示すことが難しい」と説明しました。

さらに昨今では、高級車を中心にフロントガラスに加えて運転席・助手席にも合わせガラスを採用するモデルが徐々に増加。合わせガラスでは一定のUVカット・遮熱性を備えた中間膜が挟まれており、純正ガラスの時点で一定の機能性が備わっています。また高年式車では、特にサイドガラスでVLTが70%付近の車両もあり、実質フィルム貼付ができないモデルも珍しくありません。

前述の車検・VLT測定を巡る入庫拒否ケースに、ADAS普及によるフィルム貼付禁止の明記など、カーフィルム施工の障壁となりうる要素が増える傍、純正ガラスの高機能化も進む現状…。
もちろんカーフィルムには、プライバシー性の向上(目隠し)やドレスアップ、飛散防止など遮熱性以外の機能・魅力もあります。ですが、暑さ対策でカーフィルム施工を考えるカーユーザーにとっては、手をかざす体感器や「ジリジリ感が減った」などの経験則だけでなく、“実際の有益性”も知りたいところ。
貼付後にVLT70%を確保できるカーフィルムが「どれだけの遮熱性能を発揮」し、「純正ガラスに比べてどれほど向上」するのか…。勉強会でリンテック芳賀氏も「費用対効果を判断する材料となるエビデンスを施工事業者とともに作っていきたい」と述べており、今後体制が一新されたJCAAからの情報発信が待ち望まれるところです。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

プロフィール

関連記事一覧