メーカーに聞いた! ゴーストフィルムの現実と展望…車検・法規編

ブレインテック宮地代表
カーフィルム

カーオーナーはもとより自動車業界のプロの間でも、正否・賛否の情報が乱雑に飛び交う発色系フィルム。その筆頭格として議論の渦中にあるのがブレインテック(福岡県北九州市)が製造・販売する「ゴースト」シリーズです。
開発から製造・販売までを一手に手掛ける宮地聖代表に、製品を取り巻く環境をどのように見ているのか、そしてどのような将来展望を思い描いているのか、改めて教えてもらいました。前後編2回の前編は、製品登場以降、議論が止まない法規・車検に関することから。

ブレインテック宮地聖代表取締役。1998年創業。カーフィルム施工店を営む傍、2000年代後半から輸入フィルムの販売を開始。2010年代中盤からゴーストの自社開発をスタートし18年に上市した。フィルム開発・セールスだけでなく、趣味でチューニングやラリー競技に参加するなどカーエンスージアストの顔も持つ。

カーフィルムのピュアゴースト

「ゴーストが車検に通る」の正しい意味

ゴーストの発売が2018年。輸入・国産の様々な発色系フィルム(本記事では光の反射により有色に見えるフィルムの総称として使用)が販売されていた中、今ではゴーストが代名詞的存在となっていますが、車検の適合や施工の是非に関する議論は今なお続いています。改めてメーカーとしてのご見解を教えてください。

ありがたいことにここ数年、カーオーナー様にもプロショップの方にも広く認知していただき、多くの方にご使用いただいています。そして当然、製造・販売元として、法律違反することなく使っていただける製品として販売しています。ここでいう法律は、道路運送車両法第29条と細目を定める第195条で記載された「窓ガラスを規定する保安基準」のこと。ゴースト各製品はこの保安基準に準拠すべく開発した製品で、保安基準の適合可否を検査する車検にも当然対応できることを念頭に開発しています。詳しくは弊社HPでも情報提供を継続していますので、そちらも見ていただければと思います。
参考:フロント周りフィルム施工車両の法規関係(相対図)※ブレインテックHP

にも関わらず「車検に通らない、落ちた」「違法」といった情報が出回っていますが…

大きく「1:車検制度」「2:ガラス・フィルム」「3:車検運用」の3つの実態が組み合わさり、誤った認識や情報を呼び起こしているように見えます。
1つ目が、「車検時の状態で判断する」というのが車検制度であるという点。例えばマフラーなどのカスタムパーツも、車検対応品であったとしても取り付け状態によって車検時に不適合とされるケースもあります。なので、現制度ではいくら車検対応品であったとしても「車両装着した状態で車検時に判断される」というのが前提になります。
そして、この車両装着状態に関わるのが「ガラス・フィルムの複雑な流通実態」。先のマフラーの例でも、マフラー単体では車検適合でも、例えば車高調と合わせて装着することで最低地上高が不適合になるなどのケースもあると思います。フィルムも同様で、装着する車種やガラスの種類、フィルムの種類で透過率は変わってきます。同じ車種でも年式やグレードなどによって純正ガラスが異なる場合もあるので、最近SNSなどで「この車種とこのフィルムで通った」などの情報も出回っていますが、それはあまり参考にならない情報としてご留意いただきたいです。

車検時判断が前提で、そもそも貼った状態も千差万別というのは、施工者オーナー側も理解しておきたいところですね。3つ目の車検の運用とは?

メーカーとして業界側を良い方向に変えていけたらと考えているのが、この3点目の「車検運用」です。というのも、フィルムに関しては保安基準や車検の審査事務規定(車検での判断の規定)に則った検査を行えていないところの方が圧倒的に多いからです。
ディーラーなど多くの民間車検場(指定工場)では、「判断できないから車検自体を受けないor剥がす」というのが実態です。そしてこの法的根拠自体を適切に理解している自動車業界のプロも、フィルム専門店も含めても多くないように見受けています。
今年1月、国土交通省から「フィルムの車検はPT-500で測定して判断してください。できなければ持ち込み車検してください」という通達が出ましたが、法律自体は変わっていないのに今さら出たことからも、その実情は窺えます。

可視光線透過率測定器PT-500
可視光線透過率測定器PT-500

フィルム装着車を適切に検査できない理由は何かあるんでしょうか?

日本の業界の歴史も含め2つの理由があるように見ています。
1つは、2003年の道路運送車両法の改正により違法施工の取り締まりが強化されたこと。それまでフルスモークも珍しくありませんでしたが、これを機に違法施工ショップの検挙なども相次ぎ、特に違法改造を出したくない指定工場側では「判断できないなら受けないor落とす」という傾向となったのではないでしょうか。そもそも社会的に広く「フロントへのカーフィルム施工=フルスモークのような違法改造」というイメージが根強く残っていて、車検でもフィルムに関しては「通すためではなく落とすための検査」のように見受けられます。

フロントフィルム=フルスモ=違法改造の図式ですね。もう1つの理由は?

保安基準に準拠した可視光線透過率測定器の運用が現実的ではなかったことです。現在弊社でも販売、使用推奨している保安基準に即したPT-500は2021年に登場しましたが、それまで唯一の保安基準対応測定器だったPT-50はとても大型で高価。運輸局では使用されていましたが、ディーラーなど民間企業の現場で使用するのは現実的ではなく、「検査=判断ができないから剥がしてもらう」という姿勢がとられていました。これは地域差などもありますが、今なお続いています。また、可視光線測定器を保有している場合でも、保安基準とは別の規格で測定する小型・安価な簡易測定器が使用されている実態もあります。

簡易測定器での測定結果は車検には意味ないのでしょうか?

完全に無意味ではないと考えています。車検の判断は、フィルムに限らずですが、最終的に「自動車検査員というみなし公務員の裁量」に委ねられている部分が少なくありません。フィルムの検査も「70%を下回る恐れがある時は測定器で計測する」と規定※されていて、検査員が簡易測定器の数値などを基に「下回る恐れがあるとは認められない=適合」と判断するのはありえるかと。
ただ一方で、「簡易測定器の測定結果は法的根拠に基づかない情報」というのは留意したいところ。例えば一度「不適合」と判断したものを覆したい場合、当然これでは適合を訴える材料にはなりえません。SNSで見かける「この車種にこのフィルムを貼って通ったというのを見た」というのと同じぐらい“不確かな情報”だと考えています。
※自動車技術総合機構(NALTEC)審査事務規定9-5

様々な規格の可視光線透過率測定器
様々な規格が存在する測定器

今カーオーナーがすべき対応は? “法的根拠”の大切さ

なるほど。ではPT-500が販売された今では、適切な検査が広まる可能性があるということですね。実際、今ゴーストを貼っている人は車検時どのようにすれば良いのでしょうか。

まず、基本的にフィルムを貼ってあること自体を車検の時にご自身で申告していただく必要はありません。運輸局の自動車検査場でも、ディーラーなどの指定工場でも、検査場に車両を持ち込む認証工場でも、基本的には預け先で適切に判断してもらうのを待つだけです。

困るのは「車検自体を断られた」「車検して不適合となった」場合ですよね

まず車検自体を断られる、弊社では「車検拒否」と呼んでいますが、運輸局などの自動車検査場ではないので、ディーラーなどの指定工場(民間車検場)か持ち込み車検を行う認証整備工場ですね。基本的にはいずれも民間企業なので、車検を断られたら従わざるをえません。不合理な差別でない限り「フィルム装着車の車検を断る」のも民間企業の契約の自由に当たるかと思います。
ただ、今は先の国交省通達が発されたので、「国交省通達通りに持ち込み車検をお願いします」の一言で、理解している窓口であれば受けてくれます。それが通じない場合、そのような理解度が低いお店を説得するのも大変なので、車検してくれるショップを探したり、フィルムを施工した店に車検先を相談した方が早いでしょう。
ちなみにディーラーで、かつ車検ではなくメーカーリコールや車両販売に付帯したサービス点検などについては、販売の責任があるので「入庫拒否はおかしい」と考えています。しっかり測定して違法施工と判断した」などでない限りは法的根拠に基づかない判断なので、メーカーのお客様相談センターや消費者庁などしかるべき窓口へ相談してください。

剥がさないと車検を受け付けない、と言われた場合はどうでしょう?

これもリコールなどと同様で、測定しない限りは「法的根拠に基づかない判断」になると思うので、従う必要はありませんし検査員の越権行為ですらあると考えています。ただ、車検拒否自体は不当ではないと思われるので、受けてもらえない場合は理解度が低い店として諦めて、剥がさずに車検してくれる工場を探した方が良いでしょう。

車検で不適合となった場合は?

これは基本は剥がすしかありません。仮に施工時に合法と言われたとしても、車検時の判断が大原則なのは先に述べた通りだからです。
ただ、これも先に述べた通り、「保安基準に即していない車検」が行われた可能性も現状ではゼロではありません。残念ながら、測定器を持っていない民間車検場はもとより運輸局の車検場であったとしても、測定器を正しく校正していないなどの理由で「適切な計測が行われていない」ケースも少なからず耳に入ってきています。
なので、例えば「近々に専門店でPT-500で測定したばかり」など、自車の保安基準適合に自信がある場合は、「1:施工・測定した専門店に相談」「2:別の車検場に持ち込む」などすると剥がすことなく車検適合できる可能性もあります。

車検結果が覆る可能性があるんですか?

大切なのが、「保安基準と同一規格の測定器(PT-50、PT-500)」で測ってもらった「法的根拠のある測定結果」を戦う材料とすることです。これ以外の「保安基準とは別規格の機器」で測定したとしても、法的根拠に基づかない目安数値となってしまいますが、逆にPT-500で計測した証明書があれば、車検場の検査員に対し「70%を下回る恐れがない=適合」と判断させるための材料になりえると考えています。

ブレインテック宮地代表インタビュー

リーガルゴーストショップの意味と変わりつつある業界

その「PT-500で測定してくれる店」の目印になるのが、22年にスタートした「リーガルゴーストショップ(LGS)」ですね。改めてどういうものか教えてください。

LGSは、道路運送車両法の保安基準に準拠した、合法のカーフィルム施工を提供するショップを認定する弊社の独自制度です。PT-500(およびPT-50)の保有が1つの要件で、70%以上を遵守した施工と測定、証明書発行の3つを実施しています。測定・証明書発行に関しては、有償ですが他店・ゴースト以外のフィルム施工にも対応しています。
発足から1年経たずして全国70店舗近くの加盟店(※5月時点)にご賛同いただき、まだ正式加盟に至っていないもののご準備いただいている施工店も多くいます。

LGSであれば合法かどうか不安になることなくゴーストを貼ってもらえるんですね。ただ車検拒否にあう可能性があったり、証明書で適合が確約されなかったり“車検の面倒”は変わらないですよね?

その通りで、LGS発行の証明書も“法的効力”はないので、それをもって「車検OK」とはなりません。ただ、LGSでは測定器も測定の仕方も正しく運用し、その測定および証明書は業界でも初めての“法的根拠”ある情報だと考えています。
先にも述べた通り、運輸局も含め車検場ではどれだけ正しく計測しているか地域差などもあるのが現状です。それに対して“法的根拠に基づいた測定値”は、疑問の余地がある車検不適合に遭遇した際に検査員に働きかける材料に十分なりえると考えています。なので、もしそのような状況に直面したら、剥がさずに「車検不適合理由」を開示してもらい、LGSに相談してください。LGSでの施工車両であれば、LGSはもちろん弊社も“法的根拠”を武器にサポートします。

法的根拠のある測定は業界初なんですね。その安心感はカーオーナーにとってもメリットだと思います。そもそもLGSはなんで立ち上げたのでしょうか?

繰り返しになりますが、測定規格の異なる測定器で車検不適合となったり剥がされたりといった「間違った車検」や「ディーラーでの入庫拒否」が横行しているのが現状です。その“カーフィルム施工車オーナーの不合理な不利益”をただ解消したかっただけです。
すでに足元では、LGSが懐疑的な車検不適合に対して折衝に入ることで、車検結果はもとよりその地域のディーラーが運用方針を変えたりといったことも出てきています。車検も自社で手掛ける大手カーショップがゴーストを取り扱ってくれたりLGSに賛同してくれたりしてくれるようにもなりました。近い将来、ディーラーなど指定工場では「PT-500を持っていないので測れません、車検できません」というのはなくなってくれるのではないでしょうか。

フィルム施工車の車検が今までと比べると円滑になりつつあるんですね

日本のフィルムを取り巻く環境において、今までの車検の在り方は普及を幅む阻害要因となっています。まずは業界側で正しい認知・運用が広まり、カーオーナーにとってカーフィルムが貼りやすく、楽しみやすくなることを願っています。
そして将来的には、「可視光線透過率70%」という規定を下げる規制緩和も目指したいというのが本心です。それは、もちろんゴーストを販売する立場もありますが、ゴーストに限らずそれだけカーフィルムをフロント3面に貼ることに有益性があると考えているからです。

リーガルゴーストショップのぼり旗

次回のインタビュー記事後編では、可視光線透過率や測定を巡る「縛り」を乗り越えてまでも貼ることを推奨するカーフィルムのメリットをご紹介。ファッション性という見た目ばかりが注目されるゴーストですが、ドレスアップ用品としての価値は宮地代表の本懐ではないとのこと。カーフィルムが一般的に普及する海外諸国などの情報と合わせ、いかに日本のカーオーナーがカーフィルム施工に制限を受けることで損をしているか。社会的利点という側面からもゴースト製品の魅力をお伝えします。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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