次世代に引き継がれるフィルム施工技術…JCWA第2回全日本カーラッピング選手権

日本カーラッピング協会(JCWA、苅谷 伊会長)は5月28〜30日、カーラッピングの施工技能を競う「第2回全日本カーラッピング選手権(WRP選手権/会場:大阪南港ATCホール)」を開催し、地元大阪の施工ショップ「リンダファクトリー」のトレンゴブ海氏が初優勝を飾りました。
JCWAでは国際大会「World Wrap Masters(WWM)」の日本大会も開催していますが、今回のWRP選手権は日本独自の規格。国際大会ではラッピングに加えてペイントプロテクションフィルム(PPF)も競技種目に採用され始めていますが、今大会では「塩ビ素材のラッピングフィルム」に絞った種目が設定され、会場も広告や看板などの展示会「SIGN EXPO 2025」内で実施されました。
大会出場を積み重ねて届いた優勝
第2回WRP選手権はラッピングフィルムの施工技能を競う競技会で、全国から32人のプロ施工者が出場しました。実際の車両を使って行われる競技では、近年トレンドのPPFは取り入れられず、従来からラッピングフィルムとして親しまれている塩ビ素材のフィルムにフォーカス。ただ、塩ビ素材のフィルムと一言にいっても「デザイン出力されたインクジェットメディア」や「看板用のマーキングフィルム」、自動車のカラーチェンジ用単色フィルムでも「品質に優れるとされるキャスト製法」、「艶感に優れるものが多いカレンダー製法」とその種類は多岐にわたります。それぞれに求められる施工技術も異なり、大会ではそれぞれの技量を推し量る種目が設定されました。
競技種目
▼第1R
・Fフェンダー(カラーチェンジ・3M)/Fドア(カラーチェンジ・RWF)
・Rバンパー(カラーチェンジ・オラフォル)
・パネルラッピング(マーキングフィルムによる看板制作)
・Fバンパー(カラーチェンジ・KPMF)
▼第2R
Aピラー〜Rクォーター(カラーチェンジ・テックラップ)/Rドア(カラーチェンジ・エイブリィデニソン)
▼第3R(準決勝)
Fバンパー(カラーチェンジ・オラフォル)/Fフェンダー(インクジェット・アーロン)
▼第4R(決勝)
Fフェンダー・Aピラー〜Rクォーターパネル(カラーチェンジ・エイブリィデニソン)/前後ドア(インクジェット・アーロン)/ロッカーパネル(カラーチェンジ・3M)
※車両施工は全て片側
優勝したトレンゴブ海氏は、多岐にわたる種目で構成された各ラウンドを全てトップで通過。若干23歳の若手施工者は、在籍ショップではここ3年程は主にPPFの施工を担当していますが、ラッピング施工を競う今大会でも圧倒的に優れた技能を示しました。
その背景には、日々の施工業務もさることながら、仕事以外でも果敢に技能向上に取り組んできた積極的な姿勢があります。今大会も含めたJCWA主催競技会への参戦もその1つでしょう。
海氏は2020年の第1回WRP選手権以降、数多くのJCWA主催競技会に参加。ラッピングの大会では、第1回WRP選手権こそ第2R敗退(全体14位)でしたが、World Wrap Masters(WWM)2022では3位タイ、WWM2023では2位に入賞。PPFの大会でも第1回、第2回PPF選手権ともに4位と、競技会では4人で争われることが多い決勝戦の常連となっています。
そして、その積み重ねた経験を今回の優勝へと一押ししたと本人も振り返るのが、本大会直前にドイツで開催されたWWMヨーロッパへの出場です。JCWAでは、過去大会の一部成績上位者を対象にWWMヨーロッパへの参戦を促し、現地での競技参加をサポート。欧州各国の実力者が集まった同大会で、海氏は5位入賞を果たしました。
また、PPF選手権を通じて交流を持った神奈川県のPPF施工専門店「P-Factory(井上代表)」に施工技術を教わりに行くなど、競技会への参加にとどまらず技能向上に対してストイックに取り組み続けています。
今大会の決勝戦後、他の選手よりも完成度が高い状態で終えた車両を前に「直近のドイツでの経験も踏まえ、持っているものを出し切れた」と手応えを示した海氏。「ドイツで世界トップの人たちを目の当たりにし、もちろん力の差も感じたが、全く手が届かない背中ではないようにも見えた。数年前に国内の大会に出場した時の自分なら、恐らくトップの選手たちを見ても『何がスゴいかが分からなかった』と思う。大会への出場を続け、今回は彼らの技術のどこが優れていて、どこを自分の施工にも落とし込めるかが具体的に見えた」と、これまでの競技会などでの経験が技量の向上に繋がったことを明かします。
結果発表後に「やっとですね。長かった」と優勝を噛み締めた海氏。苅谷会長のねぎらいに対し、「次は世界一を目指します」と力強い言葉を残しました。
台頭する若手、後進に道を譲るベテラン…
若手のトレンゴブ海氏の優勝を筆頭に、第2回WRP選手権では世代交代を窺わせるシーンが印象的でした。
今大会、2位は黒川翔太氏、3位は斉藤峻氏と2人とも神奈川県寒川町のラッピング専門店「ジーマイスター」の若手施工者が入賞。同社では今年3月、数々の大会で優勝を飾った国内王者・川上裕貴氏が退職・独立したものの、その高いレベルのフィルム施工技能がしっかりと次代へ受け継がれていることを示しました。
また、24年のWWM Japanで川上氏を抑えて日本人最上位の2位となり、前述のWWMヨーロッパ2025でも日本人最上位の3位表彰を果たしたラップギア岡部和彦氏(LAPPS講師)は、今大会では審査員として参加しました。「今年11月に開催予定のWWM Japanで選手としての大会参加は最後にすると以前から決めている。その後は、審査など自分で手伝えることがあれば積極的に応援していきたい」と話すとともに、今回新たにJCWAへ入会。今後は選手以外の立場から業界発展に寄与したいと、ベテラン施工者らしい意向を示しています。
洗車やコーティングといったカーケア周辺サービスと比べると、サービス・業界の歴史が浅いカーラッピング・PPFの世界。それゆえにフィルム製品、施工技術それぞれの進化が著しく、変動が激しい側面も…。
そうした環境下で、今大会でWRP・PPF通算で9回目を迎えたJCWA主催の競技会。回を重ねるごとに大会が果たす役割も顕在化しつつあり、「世界市場へ通じる施工技能の底上げ」「後継世代の育成」といった業界発展に不可欠な機能を徐々に確立してきているようです。