印刷用フィルムでもTPU登場…レベル高まるWWM JAPAN 5回目出場の鈴木勇也氏が初優勝

PPF・ラッピング

日本カーラッピング協会(JCWA、苅谷伊会長)は11月22〜24日、施工技能を競う国際規格の競技会「FESPA World Wrap Masters JAPAN 2024(WWM JAPAN)」を開催しました。会場はジャパンモビリティショー名古屋 2025(会場:ポートメッセ名古屋)内。
海外からの出場3人を含む全40人が参加し、6人による熾烈な決勝戦の末、過去全てのWWM JAPANに出場してきた施工歴8年の鈴木勇也氏が初優勝を飾りました。

▼決勝戦の結果
優勝:鈴木勇也氏▷東京フルアヘッド
2位:トレンゴブ海氏▷大阪府リンダファクトリー
3位:岡部和彦氏▷ラップギア(LAPPS講師)
4位:林田優希氏▷大阪府リンダファクトリー
5位:斉藤峻▷神奈川県ジーマイスター
6位:佐々木良太▷静岡県シャンシャン

  • 優勝した鈴木勇也氏(東京:フルアヘッド)

素材のマルチ化に技術レベルの上昇…高度化するフィルム施工競技 

World Wrap Masters JAPAN(WWM JAPAN)は、国際的な印刷の業界団体「FESPA(フェスパ)」が運営するラッピングプロ施工者の競技会。世界各地で地区大会が開催され、年に1回のファイナルでは各地大会の優勝者が集まり、その年の世界王者の座をかけて闘います。
2019年の第1回を開催したWWM JAPANは今回で5回目。フィルム素材の進化や市場環境の変化を受け、競技内容や参加者も変化を遂げています。

今年のWWM JAPANでは、昨年に引き続き塩化ビニル(PVC)とポリウレタン(TPU)の両素材を競技種目に採用。従来、カーラッピング施工ではPVC素材が主流でWWMもそれに倣っていましたが、TPU素材フィルム(ペイントプロテクションフィルム)の目覚ましい発展を受け、24年のWWM JAPANでは他国開催に先駆けてTPUフィルムを導入しました。
さらに今年は、単色カラー(ラッピングとカラーPPF)だけでなく、印刷出力のインクジェットメディアでもPVCとTPUの両素材を採用。耐候性や保護性能の面で優位性を持ち、年々価格競争力も高まるTPUフィルム。素材・メーカーが異なれば厚み・粘着性・伸縮性・柔軟性・熱への反応など各特性も異なるため、カラーチェンジとフリート(広告)の両面でPVC・TPUそれぞれの施工技能が問われた今大会は、従来以上に幅の広い対応力が求められる大会となりました。

競技種目
▼第1R
Fフェンダー・ミラー:ラッピング・カラーチェンジ(RWF)/Rドア:カラーPPF(3M) ※全て片側
クリエイティブ:ティッシュケース
▼第2R
Fドア:インクジェットTPU(CARLAS) ※片側
Fバンパー:クリアPPF(LEGEND) ※片側
▼第3R
Fフェンダー・ドア:カラーPPF(3M) ※片側
クリエイティブ:ティッシュケース
▼第4R
ボンネット:インクジェットTPU(CARLAS)+ラッピング・カラーチェンジ(KPMF)
Rドア:ラッピング・カラーチェンジ(RWF)※片側
Rフェンダー:クリアPPF(LEGEND) ※片側
▼第5R
サイド全面(前後フェンダー・前後ドア・ロッカーパネル・Rバンパー):ラッピング・インクジェット(ORACAL) ※片側

また技能の幅に加え、競技レベルも一段と厳しくなった印象です。JCWAが運営する国内競技会も回を重ね、出場選手の技能レベルは年々上昇。従来であれば初戦から中盤にかけては「規定時間内に貼り終えない」ことも珍しくありませんでしたが、近年は「貼り終えるのは当たり前で審査採点で優劣がつく」というケースが増えてきています。

そうした中、今回6人で争われた決勝戦は、例年とほぼ同様の施工メニュー「サイド(片側)全面の施工」ながら、前回までの80〜90分より大幅に短い60分の設定。優勝した鈴木氏含め、貼り終えない選手が多くいるとてもハードな競技内容でした。

  • 決勝・制限時間ギリギリまで全力で臨む選手たち

「全速前進」が持ち味 初戦から全力で掴んだ初優勝

決勝戦後には、勝ち残った実力者たちがみな疲労の色を浮かべていたWWM JAPAN2025。前回日本人最上位だったベテラン岡部和彦氏も抑え、激戦を見事制したのが競技会初優勝の鈴木勇也氏です。

鈴木氏は、2019年の第1回WWM JAPANから過去5回全てに出場。加えて過去2回開催された「全日本カーラッピング選手権」にも参加するなど果敢に競技に挑戦し続け、23年(WWM JAPAN))7位、24年(同)5位、25年(選手権)4位と、近年は優勝争いの常連になる程に腕を磨き続けてきました。
日々の業務、競技会と、ラッピング・PPF施工に全身全霊で取り組む鈴木氏。今大会でも「他の選手みんなレベルが高く落とせるところがないので、最初から100%、全ラウンド1位を狙うつもりでやってきた」と挑戦心全開で、初日第1Rから決勝まで累積で評価する審査方式(従来は各ラウンドごとの評価)も味方につけて優勝を掴み取りました。表彰後には「大会も初めの方は1回戦で負けたこともあったが、続ければ良いことがある。何より楽しい」と自身の挑戦の道筋を回想。優勝の副賞として26年5月にスペイン・バルセロナで開催される「WWM FINAL」出場権が授与され、次回はこれまで日本人が優勝したことない世界王者の座に挑みます。

また鈴木氏は同じく11月、自身の施工ショップを東京都八王子市に新たにオープン。ショップ名には、同氏のフィルム施工の姿勢をそのまま表したような「Full Ahead(フルアヘッド=全速前進の意)」を冠しています。

  • 優勝した鈴木勇也氏

ちなみに鈴木氏は、日本での競技会だけでなく、25年5月にドイツ・ベルリンで開催されたWWM Europeにも参戦。今大会の決勝戦を戦った6人のうち5人を同じくベルリンに遠征した施工者が占めました。今年5月のラッピング選手権、10月のPPF選手権で優勝したトレンゴブ海氏(リンダファクトリー所属)もその1人で、体調不良に見舞われた今大会でも準優勝としっかりその高い実力を示しました。

特に顧客側視点では、技能やサービス品質の差が目に見えにくい部分もあるラッピング・PPF施工。一方で、鈴木氏やトレンゴブ氏のように競技会に果敢に挑戦する施工者は安定して高い技能レベルを示し続けています。
もちろん、競技の実績と施工サービスの品質はイコールではないものの、貼るフィルムや車両が高度化・複雑化する中、競技会などJCWAの活動を通じて技術・知見を磨き続けている姿勢・実績も、カーオーナーが施工依頼先を選ぶ際の“品質を推し量る材料の1つ”になりうるのではないでしょうか。

未来ではなく“今のカーケア”として広まるラッピング・PPF

WWM JAPAN 2025は、2019年の第1回大会や23年のPPF選手権と同じく「ジャパンモビリティショー名古屋 (JMS名古屋/前身:名古屋モーターショー)」内で実施されました。

JCWAでは例年同様、競技会の隣接ブースでフィルム貼りを楽しめるラッピング体験ブースを展示。また、ペイントプロテクションフィルム(PPF)のリーディングブランドXPELと福井県の施工ショップ「G-DESIGN(ジーデザイン)」の共同ブースも隣接し、世界的に普及が進むラッピング、PPF、カラーPPFの魅力が老若男女問わず幅広いクルマ好きに発信されました。

  • JCAWのラッピング体験展示

このほか、DIY用簡易コーティング剤などを手掛ける大手カーケア用品メーカーのブースでもラッピング施工をPR。これまでカーケアの中心だったコーティングでは、水回りや家具家電など自動車以外の幅広いシーンでの活用を提案しつつ、プロ施工カーケアサービスの1つとしてラッピング・PPF施工の魅力をアピールしていました。
東京開催のジャパンモビリティショー2025ではコンセプトカーや次世代モビリティなど“クルマの未来”を指し示す展示が多かったのに対し、買える輸入車・新型モデルなど“今のクルマ”に触れられたJMS名古屋。
ラッピングにしてもPPFにしても、普及が進む海外諸国と比べるとまだまだ国内市場は限定的と見られています。それでも、JMS名古屋の一角では、未来や一部富裕層のものではなく“今のカーケア”として多くのクルマ好きから注目を集めるラッピング・PPFの姿があり、着実にその裾野が広がっていることが窺い知れました。

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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