臭いを断つ洗浄とすすぎ! 元整備士が作り出した車内クリーニング…IKC鎌倉工房
「クルマの美しさ」というと、洗車やコーティングなどでもつい外装(ボディなど)に目が行きがち。専門店と車両販売店や量販店との差、ショップ同士の違いなんかも気になるもの。ただ、実はその店やサービスによる品質の差、車内清掃(ルームクリーニング)にもあるのをご存知でしょうか。
多くのカーオーナーが最もクルマと接する時間が長いのは、むしろボディよりも運転中座り続ける車内。そしてボディコーティングなどと同様、内装クリーニングでもその作業品質はピンからキリまで。今回はプロ用資材を自社開発し、「おそうじおまかせ隊」という施工サービスをFC展開するアイ・ケイ・シー鎌倉工房の木村光夫代表に、“高クオリティなルークリ”の真髄を教えてもらいました。
そもそもルークリって? プロでも解消しきれないことも
そもそも自動車の車内クリーニングと一言にいっても、その内容は多岐にわたります。掃除機がけや内窓拭きなどカーオーナー自身でも行うような簡単な作業もあれば、シートやルーフ、内張、フロアといった各部の素材・形状に応じて専用の機械・洗剤を使うプロの洗浄まで幅広く、汚れが奥や裏側に入り込んでいる場合は内装を脱着して作業を行うこともあります。
汚れの種類も様々で、もちろん長年の使用による経年汚れもありますが、代表的なのがタバコ(ヤニ)やペット、子供の嘔吐、飲食(食べ残し)、灯油などを原因としたもの。シミなど見た目の汚損もさることながら、いずれもそれぞれの汚れ成分が放つ悪臭が車内空間をとても不快なものにしてしまいます。
そしてこの悪臭を伴う汚損のクリーニングこそ、カーオーナーがプロに依頼するケースとして多く、またショップによっても仕上がりに差が出るポイント。木村代表によると、「プロに1回依頼したけど落ち切らなかった」として改めて同社にクリーニングを依頼されることもあるそうです。
汚損が解消しきれない主な原因が、「洗浄が不十分・不適切で汚れが落ちきれていない」、「洗浄後の乾燥が不十分で湿った内装に新たな菌が繁殖してしまった」といった理由。シートなど布製品のクリーニングでは、汚れの種類に応じた洗剤で洗浄し、広く普及する汎用リンサークリーナー(水を吹き付けて汚れを浮かし、吸い取る洗浄機)を使用するのが一般的。ただ、この洗剤の選択が不適切だったり、装着したままの車内シート洗浄を想定していない汎用リンサーで大量の水を使用してしまうことで、前述のような「汚損の未解消」が起こり得てしまうといいます。
鍵は「少量すすぎ」 菌の繁殖・臭いを抑制
そうした「悪臭が落ち切らない既存のルームクリーニング」を自身でも経験した木村代表はプロ用資材「SK-36クリーニングシステム」を自社開発。2010年の開発以降、全国の専門店に導入されています。10年以上支持され続けるSK-36の基幹システムが、「幅広い汚れに対応した専用洗剤」と「洗剤・水の使用量を抑えられる特殊リンサー」の2つの組み合わせです。
1つ目の洗剤に関しては、標準的な施工では洗浄液と仕上げ剤の2つの液剤を使用。まずは洗浄液で汚れを分解洗浄し、仕上げ剤ですすぐことで洗浄液のアルカリ性を中和します。
洗浄液は、皮脂・角質・吐瀉物や食べ物・飲料成分、ダニやホコリ、タバコのヤニなど様々な汚れに1本で対応できる優れモノで、除菌剤も配合しているのでカビ、黄色ブドウ球菌やインフルエンザ、ノロウイルスなどにも有効。この強力な洗浄液をしっかりと中和、洗い流せることを念頭に仕上げ剤も専用設計されており、仕上げ剤にも柔軟剤・抗菌剤成分が配合されています。
実はクルマ用に限らず布製品の洗浄剤は汚れの種類に応じて細分化されている製品が多く、一方で施工者が汚れの種類を判別しきれずに適切ではない洗浄剤を使用してしまうケースも少なくないのだとか。基本1種類の洗浄液で対応できるSK-36システムは、この「施工者によって汚れが落ちたり落ちなかったり」という品質差を解消。加えて標準コースでは解消できない劣悪な汚れを対象とした塩素系洗浄液や、布以外の素材(ガラスや樹脂、レザーなど)に使用する拭き取り型洗剤もそれぞれ専用品を取り揃えています。
そして、仕上げ剤ですすぐ際に使用する特殊リンサー「SKガン」もSKシステムに欠かせないツール。特にこだわったのが特許取得済みの先端ノズルで、角度・薄さなど独自に設計された形状が特徴。狭い隙間や曲面など車内の幅広い場所を洗浄できるほか、すすぎ液の吹き付けや汚れの巻き込み吸引でも効率的な力を発揮します。一般的な汎用リンサーと比較して使用液剤量を10分の1に削減できたそうで、前述の専用洗剤とこの独自リンサーの組み合わせが、強力な洗浄とすすぎ残しの抑制を実現しています。
少量でのすすぎは、シート1座席の乾燥時間わずか20分、1台丸ごとのクリーニング作業でも当日納車という短時間作業を実現。乾燥不足による雑菌繁殖(=臭い再発)も防いでくれます。
木村代表は、この独自資材の開発について、「ガソリンスタンドや量販店、整備工場などはもとより車内クリーニング専門店でも汎用のリンサーを使用しているケースは珍しくないが、カーペットなどのようにめくって乾かすことができない車内での使用を想定されていないので、シートを取り付けたままの場合は水を大量に使用しなければならないものが多い。その結果、すすぎが不十分で汚れ・洗剤が残ってしまったり、乾燥が不十分で新たな雑菌の温床となってしまうケースもあり、クリーニング直後はキレイになったように見えても時間が経つと臭いが再発してしまったりする」とその背景を説明。
現在は、この洗浄剤とリンサーで構成する基幹システムに加え、除菌・防臭効果を備えた消臭剤「無臭宣言」や、マジック、ボールペンといった油性汚れを分解し、天然繊維にも対応するシミ取りクリーナーなど、簡易的に使用できるアイテムもラインナップに追加。特に無臭宣言は、グラフトポリマーと銀イオンによる消臭力が強力で、車内はもとより汗を大量にかくレーシングドライバーのヘルメットなどにも活用されています。
きっかけは“消えない臭い”を身をもって経験した介護
元々はラテン系など輸入車を得意とするディーラーの整備部門で働いていた木村代表。2級自動車整備士の資格も保有し、自動車業界でもルームクリーニングや美装関連ではなくメカニックの世界に従事していました。
転機となったのが、父親が難病を患ってしまったこと。退職して介護に専念した際に、介護施設の汚れや臭いに驚いたそうです。ただ、それは車両管理が行き届かないわけでは決してなく、多忙で車両清掃する時間が確保できない病院や介護施設のスタッフ事情、シートを脱着せず(=時間かからず)にキレイにする手段が見当たらなかったことなどから、当時は諦めざるを得ない環境だったとも話します。
この自身の経験を元に、「介助される人はもちろん介護するスタッフ・家族がストレスなく過ごせる車内を築きたい。そのためには簡単かつ根本的に対処できるクリーニングが必要」との想いで整備の仕事から一転、ルームクリーニングの資材開発の道へ。
特に木村代表が構想段階からこだわったのが除菌・抗菌です。コロナ禍以降は一層身近となったこのワードですが、木村代表は2010年の開発当時から除菌・抗菌機能による根源的な洗浄を追求。「シートの汚れは細菌の温床。その根源をしっかり洗浄せず、例えば重曹や除菌消臭剤、芳香剤といった簡易的な処理を施してしまうと、むしろ汚れをコーティングしてしまい、ますます洗浄が難しくなる上に臭いの再発の原因となる。根本の汚れ・細菌を対処しなければ、汚れ・臭いをしっかり除去できない」との考えがあったそうです。
そして、福祉用具専門相談員(福祉用具の説明、助言などを行う公的資格)を取得したり、整備業時代の自動車に関する技術・知見や人的ネットワークを駆使し、開発着手からわずか10ヶ月で現システムの原型を構築。開発当初、周囲からは「製品化は難しい」「無理では」といった言葉を投げかけられることも少なくなかったそうです。
現在では、開発コンセプトとなった福祉車両はもとより、長年大切に乗り続けている自家用車や低年式の中古車、タクシーやバス、レンタカーといった商用車など幅広いクルマの“車内環境の復元”に活用されているSK-36システム。その優れた洗浄性・除菌性と扱いやすさから、近年はクルマに限らず、オフィスやホテル、レストランといった各施設のチェア・ソファやカーペットなど施設清掃の事業者からの問い合わせも増えているといいます。
アイ・ケイ・シーが現在、この特殊なルームクリーニング資材・手法を提供するFC店舗「おそうじおまかせ隊」は全国に約50店舗。元々SK-36が「特殊技術がなくても高い品質のルームクリーニングを実現できる」ことを念頭に開発されたため、どこの店舗でも安心して依頼できます(価格、納期などは店舗ごとに異なります)。
また、例えばボディコーティングなどでは「こだわり・高品質メニューは高級車向けの高価格」でなかなか手が出ない場合もありますが、おそうじおまかせ隊は高品質ながら一般的なルームクリーニングの相場と変わらないのも嬉しいポイントでしょう。
一般カーオーナーの目からすると、「クリーニング専門店」の看板だけではその作業内容・品質差を判別しづらい車内クリーニング。ですが、汚れを落とし切ってくれるかどうか、それでイヤな臭いがすっきり解消されるかすぐに再発してしまうか…。実はボディコーティングや各種フィルム施工以上に施工品質・作業内容の差が仕上がりに表れやすい側面も。
年末の大掃除や長年乗り続けた大切な愛車のリフレッシュ、せっかくプロに依頼するなら、「どこまで清掃する?」「対処療法的な清掃ではない?」といったことも含めてお店選びをしてみると、より安心・快適な車内環境が手に入るかもしれません。