ディテイリングの原点を世界へ…洗車用品が人気博すカミカゼの真髄
マニア的な洗車好き層を中心にここ数年、日本でも人気を高めている「KAMIKAZE COLLECTION(カミカゼ・コレクション)」。国内では“高級洗車用品”のイメージも強いですが、その真髄はクルマの美観に時間も手間も惜しみなく注ぐ「ハイエンド市場に焦点を当てた品質」にあります。
東京オートサロン2023出展車両の準備風景とともに、改めて「カミカゼ」ブランドのルーツと本質を森田海代表に教えてもらいました。
欧州プロから絶大な支持を受けるカミカゼとは?
カミカゼコレクションは、KCインターナショナル(森田海代表、横浜市旭区)が2013年に発足したディテイリングブランド。プロディテイラー向けの製品販売・技術講習(主に欧州)と、一般カーオーナー向けの製品販売(主に国内)の2つのアプローチで、森田代表がこだわりの末に作り上げたディテイリングノウハウを提供しています。
そのカミカゼがターゲットとしているのが、ディテイリングの中でも最も高級なレイヤーです。10代の学生期からポリッシャー片手にディテイリングの世界に足を踏み入れた森田代表は、「特に欧州では、自動車の美観サービスが『Valeting(ヴァレティング)』と呼ばれる出張でのモバイル施工と、ハイエンドな『Detailing(ディテイリング)』に二極化されている。そしてディテイリング市場の中のごく一部は、1台あたり100万円前後の施工価格が成立する世界。技術はもとより車両の扱い方や顧客へのホスピタリティなど、日本基準とは一線を画す文化がそこにあり、それを肌で感じて勝負しようと決めた」とブランドルーツを振り返ります。
そして、ストイックに追い求めた技術と製品をスーツケース2個に納め、20代の若さで単身渡航。海外のプロショップを駆け巡り着実にディテイラーの支持を集め、2018年にはドバイで開催されたガルフコンコースで最優秀車両に採用。自動車の美しさを競う国際的なコンクール(ヴィラデステやべブルビーチなどのコンコースデレガンス)でも存在感を示し、今では70店舗を超えるイギリスをはじめ欧州を中心に世界250店舗超のプロショップがカミカゼ認定施工店になっています。
コロナ禍による移動制限なども一因に、日本でも2020年に本格的なオンラインでの用品販売を開始。以降、洗車にこだわる一部カーオーナーを中心に熱狂的な人気を博していますが、「洗車用品メーカーではなく、ディテイリングの施工現場がルーツであり、全てそのために開発した製品」と森田代表自身が語る通り、“高級な洗車用品”はあくまでカミカゼの一側面に過ぎないようです。
磨きでワイドボディを強調!…磨きへのこだわり
プロ用の「施工技術トレーニング」や「製品」が国内外問わず数多く流通する中、カミカゼのどういった要素がハイエンド市場で支持されているのでしょうか?
施工面では、コンパウンドやコーティングの傷埋め作用といったケミカルに頼らない、平滑な塗装面を仕上げるために“積み重ねられた工夫”でしょう。
ポリッシャーやバフ、コンパウンドといった資機材の選定にはじまり、塗装面へのバフの当て方1つとっても森田代表が独学研究の末に確立したノウハウが満載。ここではその詳細を割愛しますが、塗装面表層を艶出しするポリッシャーだけでなくペーパーで研磨するサンダーの活用や、プロでも使用が少なくなりつつあるシングルアクションポリッシャーを存分に活用する点だけでも特徴的といえるでしょう。
例えばシングルアクションは、高い研削力や発熱をコントロールする技量が求められ、ここ数年はダブルアクションの性能向上も一因に使用しないプロも増え始めています。その中で「バフ目やオーロラ傷が目立ちやすい濃色車をシングルだけで磨き上げる技術が求められるのが海外のハイエンド市場。ダブルやギヤアクションだけでの仕上がりでは描き出せない色の深みや光沢性を演出でき、コーティング塗布後はその差が一層際立つ」(森田代表)として、カミカゼの施工ノウハウの1つに今なお取り入れられています。その上で「塗装状態によっては必ずしもシングルでの仕上げが最適でない場合ももちろんあるが、それぞれの資機材や磨き方を理解した上で最適な方法を選択できるのが大切」とプロとしての矜持を語ります。
また、施工する環境も丁寧に整備。自社ファクトリーでは塗装面や傷を見極める照明をはじめ、使い勝手に優れる水/電気/エアのコード環境、床面の水捌け、下回りの作業性を向上させる車両リフトやスツールなど、創意工夫を重ねて良好な作業環境を構築。いくつかの機器は森田代表が海外で発掘したりそれをベースに改良開発したりという徹底ぶりで、同業プロが森田代表の施工環境に倣うケースも珍しくありません。
これらのこだわりの下に磨かれた車両は、近年ではイベント出展ブースで直接目にすることができます。東京オートサロン2023では、車両自体も希少なポルシェ928ベースのシュトロゼック・ウルトラを展示。ポルシェ928をベースに欧州を代表するポルシェ専用チューナーが仕上げたコンプリートカーで、ワイド化された前後フェンダーが特徴的な一台。この928を7日間かけて磨き上げ(オートサロン2022に出展していたデイムラー・ダブルシックスはなんとボディ片側だけで半月間も作業!)、フェンダー上面とサイドで磨き方を変えて光沢性に変化を出すといった技法も取り入れるなど、単純に美しくするだけでなく“磨きでワイドデザインを強調”することにも挑戦しています。
そもそもカスタムカーの祭典であるオートサロンで、洗車やコーティング用品ではなくディテイリングブランドのブース出展自体が稀。その中でブランドの世界観を体現したブースと磨き上げた車両を通じ、自社ブランドのみならず日本では十分に認知されているとはいいづらい高級ディテイリング自体もPRしています。これまでもオートサロンのほかオートモビルカウンシルやスーパーカー協会主催イベントなど数多くのイベントでその魅力を発信していますので、“カミカゼ品質”の本領を見たい人は製品を試すよりも一度直接施工車両を見てみるのがオススメです。
ちなみにこうしたカミカゼの施工内容は、プロでも一般的とはいえない水準です。それは単純に技量の差というよりもビジネス性の違いが大きく、作業内容・日数に対してそれだけの対価を請求できる市場かどうか、屋外保管や日常的に使用する車両に対してその品質を施工する価値があるか、さらにいえば一般的な磨きに比べて塗膜へ与える負荷が大きい(その中でも塗装へのダメージは抑えられる工夫もされていますが)といった点も加味すると、カミカゼの施工は施工顧客を選ぶサービスといえます。
なので「カミカゼが一番技術力が高い」というよりも、内容と価格によるサービスカテゴリーの1つとして「松竹梅の松に位置付けているブランド」と捉える方がスマートでしょう。
硬度や保証年数ではなく…製品へのこだわり
カミカゼが追求する美観へのこだわりは、施工同様に自社開発の製品にも込められています。
コーティング剤やクリーナーといったケミカル類からスポンジやブラシ、マイクロファイバーなどのアプリケーターまで多彩な製品ラインナップを誇ります。いずれもブランド化粧品のような高いデザイン性のパッケージも魅力。ですが、ハイエンド市場から支持される最大の要因は、モース硬度や保証年数、撥水や滑りといった分かりやすい指標ではなく、施工後メンテナンスを前提とした製品設計にあるのではないでしょうか。
例えばロングセラーを誇るコーティング剤「 MIYABI COAT(ミヤビコート)」は、滑りや弾きをもたらす添加剤を含まず、研磨後の塗装面への定着性を追求して開発。無機質なコーティング被膜では無機質な汚れ(ウォータースポットやシリカスケールなど)の付着が避けられないことを前提とし、“施工後のメンテナンスを行える被膜(犠牲被膜)”を形成します。ミヤビコート(ベース)の上に施工できる「ISM COAT(アイエスエムコート)」も同じ設計思想で、「一時海外のコーティング市場でも、被膜硬度や保証年数などの過度なPRが横行する時期があったが、その時代にあえて『施工後メンテナンスを前提とした柔軟性ある被膜』を打ち出し、結果的に評価されている」(森田代表)そうです。
液剤の特性だけでなく、施工や施工後メンテナンスを通じて初めて美しさが発揮されるブランドコンセプト。そのため施工後に使用できるクリーナーや簡易コート剤も豊富で、「ANTI-AGING(アンチエイジング)」の名称で手軽かつ長く美観を維持できるケミカルを揃えています。
また2022年には、SNSなどを中心にワックス製品「THE d’ELEGANCE WAX 風神&雷神」も爆発的にヒット。無機質な汚れに強くコーティングとは異なる艶感も魅力で、商品開発のアイデア性などを評価する業界専門紙『日刊自動車新聞』の「用品大賞2022・洗車・コーティング部門」も受賞しています。
近年では、機能性を向上させる技術としてカーボンナノチューブの活用にも取り組んでおり、前述の各種ケミカルの現行品には全て配合。帯電防止機能による防汚性の向上に加え、走行性能へのプラスの働きにも注目しているそうです。
森田代表は自社開発製品について、「用品メーカーとして開発・販売しているのではなく、あくまで私の設計思想の根本は“施工現場”にある」と説明。施工現場側のみならず、国内外幅広いメーカーの開発事情も森田代表単独でリサーチし、素材サプライヤーの開拓、流通網の構築と自身のハイエンド思想を実現する環境を作り上げています。業界問わず「現場のニーズに応えて〜」というのは珍しくありませんが、森田代表の圧倒的な行動力で施工と製品開発両方の“現場”を探求しているという点では、よく耳にする“現場発プロダクト”とは一線を画すレベルといえるかもしれません。
さらに今般、今や高級車市場で無視できない存在となったペイントプロテクションフィルム(PPF)も開発。元々PPFは、どうしてもその特性上、フィルム縁に蓄積する汚れやフィルム自体の褪色などコーティングと比較した際の施工後の美観の維持に一定の課題を抱えています。カミカゼではこの課題を極力抑制する観点で独自のPPFを開発。東京オートサロン2023ではこの“カミカゼ品質のPPF”もお披露目予定です。
日本ではひとまず洗車用品から…
惜しむらくは、この“カミカゼ品質”を国内ではなかなか100%享受することができないことです。欧州を中心に海外では多くの認定施工店がありながら、国内では同社製品を取り扱うプロショップもあるものの、認定施工店は極めて少ないのが現状です。
そもそもコーティング領域は「下地処理が大半」と言われている世界。中でもカミカゼは、前述の通り施工の技術から環境まで多大な創意工夫が積み重なっており、用品だけ揃えてもノウハウも環境も不十分なカーオーナー自身の施工ではその価値を発揮し切れないのです。
その背景には、森田代表がターゲットとする超高級市場がそもそも日本では弱いという市場特性もあるでしょう。
例えば自動車を見ても、昔から高級車=輸入車のイメージは強く、今でこそ日産・GT-Rやレクサス・LFA、ホンダ・NSXなど超高価格帯モデルもありますが、海外ではさらに億超えモデルが登場してきている状況。また一例として観光の世界でも、国の経済規模などに対して日本は超高価格帯ホテルが少ないとの指摘も。マーケティングでは商品価格帯を、チェーン店に代表される「ポピュラー」、専門店や百貨店などの「モデレート」、高級専門店の「ベター」、ハイエンドを「プレステージ」の4つに分類するプライスゾーンという用語がありますが、日本はこのプレステージが弱く良い悪いは別として中流に集中している側面があるといえます。
少し話は逸れましたが、これはディテイリングの世界も同様。ディーラーオプションやカー用品店、大手チェーン専門店などが属する価格帯が強く、カミカゼが海外でポジションを築く「プレステージプライス」は日本でなかなか成立、維持が難しいのです。
そうした中で、日本のカーオーナーがカミカゼ品質に触れることができるのが、同社オンラインショップで簡単に購入できるカミカゼ製品各種。実は国内でもプロディテイラーが一般ユーザー同様にオンラインで購入して使用しているアイテムも少なくありません。品質や使い勝手はもちろん、製品デザイン・パッケージも含めて演出された「カミカゼブランド」は、愛車をキレイにする作業を彩ってくれます。
10代から国内ディテイリングシーンの変遷を目にし、若くしながら世界市場に挑戦し続けている森田代表。「最近ではセラミックコーティングなど海外ブランドが台頭してきつつあるが、昔は製品・技術の両面で“メイドインジャパン”が今以上に高く評価されていたように思う。ガラスコーティングも元々は日本発の誇るべき技術。残念なことにそれが薄れつつある今だからこそ、日本製ではなく“日本流のこだわり”として世界に発信していきたい」と自社、ひいては業界の展望を力強く語ります。
つい洗車用品を見ると、施工直後の水弾きやコスパ的合理性を求めがちですが、そんな森田代表の設計思想に思いを巡らせながらカミカゼ製品を使用してみると、“クルマの美しさを探求する世界”の奥深さをより一層楽しめるかもしれません。