WWM JAPANで世界トップの腕前披露! 国内王者退けデンマーク・サイモン氏が優勝

WWM2024
PPF・ラッピング

日本カーラッピング協会(JCWA、苅谷伊会長)は9月11〜13日、カーラッピングの施工技能を競う「FESPA World Wrap Masters JAPAN 2024(WWM JAPAN)」を開催。3日間の勝ち抜き戦の末、デンマークから参戦したサイモン氏が優勝しました。
WWMは印刷業界の国際的な協会連合FESPAが運営するグローバルラッピングコンテスト。その日本地区版となるWWM JAPANは今回で4回目を迎え、過去3回は神奈川県のヤマックス川上裕貴氏が3連覇を果たしました。海外選手の参加をはじめ、競技種目もラッピングとプロテクションフィルム(PPF)の混合となるなど、内容も結果も従来大会から大きな変化を見せたWWM JAPAN。JCWA苅谷会長が競技会の度に選手に語りかけていた「海外のレベルの高さ、日本との差」を具現化したような大会となりました。

▼決勝戦の結果
1位:Simon Manley Jokumsen(サイモン)氏▷デンマークFolie Fashion
2位:岡部和彦氏▷ラップギア(LAPPS講師)
3位:川上裕貴氏▷神奈川県G-meister
4位:林田優希氏▷大阪府リンダファクトリー

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    優勝したサイモン選手

世界の潮流…ラッピング・PPFの混合種目 

WWM JAPAN 2024にはこれまでよりも多い48人のプロ施工者が参加し、3日間・5ラウンド(全8種目)にわたり争われました。全ラウンドとも規定時間内に指定のパーツ・フィルムを貼り、その仕上がりを審査員が採点、上位から規定人数が勝ち上がっていく勝ち抜き戦です。そして今大会で特徴的だったのが、「ラッピングの大会」でありながらペイントプロテクションフィルム(PPF)も競技種目に採用されたことです。

▼競技種目
▼第1R
Fフェンダー:ラッピング(カラーチェンジ)/ミラー:クリアPPF/Rドア:ラッピング(インクジェット)/クリエイティブ種目
▼第2R
Fフェンダー:クリアPPF/ミラー:ラッピング(カラーチェンジ)/Rフェンダー:カラーPPF
▼第3R
Fバンパー:ラッピング(カラーチェンジ)/Rドア:カラーPPF
▼第4R
Fバンパー:カラーPPF/Fドア:ラッピング(インクジェット)/Rドア:ラッピング(カラーチェンジ)/ドアノブ:カラーPPF
▼第5R(決勝)
車両サイド(前後フェンダー・前後ドア・ロッカーパネル)/Fバンパー:クリアPPF
※全て片側

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    ラッピングとPPFの混合種目

ラッピングは塩化ビニル(PVC)、プロテクションはポリウレタン(TPU)が主素材で、伸縮性や接着性といったフィルム特性、ドライ施工かウェット施工かといった貼り方がそれぞれ異なります。そのためそれぞれに必要な施工技術や設備環境も異なり、同じ「自動車ボディ用フィルム」でも実際の施工事業ではショップ・施工者によって得意不得意(そもそも取り扱いできるできないも)が別れていることも珍しくありません。

またラッピングだけを見ても、単純なカラーチェンジをするカラーフィルムとデザイン出力されたインクジェットフィルムに大別され、面のキレイさや縁の細かな処理が目につきやすいカラーフィルム、デザインの水平感やパネル端の位置合わせが肝要なインクジェットと、それぞれ求められる技量も異なります。それにクリアPPF、カラーPPFが加わった今大会は、従来に比べてとてもハードといえる競技内容でした。

PPF導入の背景には、カラーPPFの登場とPPF自体の普及があります。JCWAによると、ラッピング競技へのPPF導入は世界的なトレンドでもあるそうで、WWM地区大会の優勝者で争われるWWM FINALや、アメリカの業界団体GRAPHICS PRO主催のWRAPSCON Wrap Olympicsなど、海外の大きなラッピング大会ではPPFが採用され始めています。また一般的なクリアPPFに加え、塗装保護とカラーチェンジを両立できるカラープロテクションフィルム(カラーPPF)がここ数年で普及し始め、個人車両のカラーチェンジの新たな選択肢になりつつあります。

こうした市場環境を受け、要求する施工技術の幅を一段と広げたWWM JAPAN。技術研鑽に積極的なプロ施工者である出場選手もこれを前向きに捉えているようで、WWM FINALで2年連続3位(23・24年)と世界トップレベルに位置付ける川上選手も「レーシングカーへの施工など普段の業務でPPFに全く触らないわけではないが、もっとPPFの勉強・技術研鑽をしなければと痛感した」と大会後に振り返りました。

上位選手たちの高い基礎技術・適応力

ラッピング・PPFの混合競技となったWWM JAPAN 2024。ですが決勝に残った上位4人を見ると、全員普段の業務ではラッピングをメインに扱う施工者で、サイモン選手を除く日本人3人は過去のラッピング大会の決勝常連でもあるなど、熟練ラッピング施工者の高い技術が改めて浮き彫りになった結果。もちろんラッピング・PPFパートそれぞれの採点配分などもあるものの、切る・貼るというフィルムの扱いのスムーズさ、また制限時間や採点方式という競技形式への順応など、“フィルム素材に左右されない”高い施工技術が示されたように見えました。

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    決勝戦・サイド全面へのインクジェットフィルム施工

特に日本人の強豪プロを抑えて優勝し、「世界レベルを見せつけた」形となったデンマークから参戦のサイモン選手。2023年にはWWM デンマーク、そして同年のWWM FINALで優勝を飾っている文字通りの世界王者。本国デンマークの普段の業務では、他の決勝選手と同様にラッピングがメインでPPFはほぼ扱わないとのことですが、「WWM FINAL 2023でも川上選手と一緒に競ったし、日本人が高いレベルで施工することは知っている。周りの選手というより自分との闘いとして集中した」として、言語が通じない異国というアウェイ環境の中で安定したフィルム施工の実力を披露しました。

また、サイモン選手は競技への順応性という点でもユニークな点が見え、特に顕著だったのが決勝戦。決勝の競技内容は制限時間に対して施工面積が多く、残ったトッププロたちでも貼り終えないようなとてもシビアな設定でした。
その中で、恐らく事前に公表されていた採点配分などを念頭に置いたであろう上で、例えば傷入れ(=一発失格)リスクがあるRフェンダーとRバンパーの境目のカットや、距離が長いロッカーパネルの処理をまるごと省略。一方で、FバンパーのクリアPPFは決勝4人の中でいち早く着手・完成させ、一際高い採点を獲得してこれが実質的な決勝点に。これが戦略として意図したものかは定かではありませんが、サイモン選手も全ての施工メニューは完遂できない中で高採点を勝ち取りました。

もちろん、“大会ルールに対応した戦い方・貼り方”といっても、それを実践できる施工技術があってこそ。サイモン氏の一挙手一投足は大会期間中多くの注目を集め、ラウンドを重ねるごとに敗退した選手たちも観衆に加わり、多くの同業プロがその“無駄の少ない洗練された一連の動作”に鋭い眼差しを向けていました。

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    戦略性に富んだ決勝戦のサイモン選手

海外選手から垣間見えた“仕事観”や“カラーPPFの可能性”

大会内容とは少し離れますが、WWM JAPAN 2024にはサイモン選手含め5人の海外のラッピング施工者が来日。彼らの取り組み・言葉から、海外市場の動向や日本とは少し異なる仕事観など、改めて窺い知れるカーラッピングの魅力もありました。

その1つが競技に採用された「カラーPPFの将来性」です。
サイモン選手によると、本国デンマークは「自国に自動車メーカーがなく車両自体が高価で、PPFはごく一部の富裕層が貼る高級なサービス。一方でEV車の税金が優遇されていて、オプションの少ないテスラ車などに乗る人が個性を出す手段としてラッピングは広く親しまれている」といった市場環境。そのためカラーチェンジに活用できるカラーPPFには特に高い興味を示し、競技で使ったNKODA社のカラーPPFについても「柔らかくて扱いやすく、表面の見た目・グロス感もとても素晴らしい。欧州で広く流通している他社製品よりも優れているように感じたし、本国に帰ってからも使いたい」と高く評価。
また、アメリカから来日し特別賞を受賞したエリカ選手も、「現在の普段の仕事では、カラーPPFは材料費が高いというのはある。ただ、競技で扱ったフィルムはとても快適に貼ることができ、カラーPPFは将来もっと有名になると思う」と、ラッピングシーンにおけるカラーPPFの活用に前向きな見方を示しました。

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    扱いやすさやグロス感が高く評価されたNKODAカラーPPF

そしてもう1点、この2人の海外選手はラッピング施工や大会参戦に“単なる仕事・業務の枠を超えた価値観”で向き合っていることも明かしてくれました。

海外選手の中で唯一の女性だった施工歴8年のエリカ選手は、2年前に独立してアメリカ中西部の「小さな都市」(本人の弁)でカラーチェンジやフリートマーキングの施工に勤しんでいます。そして今回のWWM JAPANに限らず、Wraps  Olympicsなど様々なコンテストに積極的に参加。その理由を「アメリカで女性をリプレゼント(象徴、代表の意)するという意味で活躍するのが楽しい」と一言残してくれました。

また、優勝したサイモン選手もWWMのデンマークやヨーロッパ大会、FINALなど競技の出場経験は豊富。「休日も含めてフィルム施工しているぐらいにラッピング施工が好きで、私にとってコンテストはスポーツ。だから1度優勝しても終わりではないし、PPFが普及していくのであれば、仮に普段の仕事で扱わないとしてもスポーツとしてそれも極める、勉強するのも楽しい。大会がなければナーバスになってしまう」と、施工や競技への並々ならぬ熱量を淡々と語ってくれました。

彼らにとってラッピング施工は、恐らく業務・ビジネススキルという枠を超えたライフワークのような存在。サイモン選手はWWM JAPAN閉幕の表彰式で、日本の選手に向けて「世界のどこか(の大会)で会えたら誇らしく思うし、それを期待している」と言葉を送るとともに、優勝の副賞(欧州への渡航費)を2位の岡部選手に贈呈。サイモン選手らしいスポーツマンシップ溢れる印象的なワンシーンで大会を締めくくりました。

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    各々存在感を示した海外からの出場選手(右はフィリップ選手)

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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