ガラス専門店だからできるフィルム施工にプロも注目…『くるまのガラス屋さん』青森県八戸市

くるまのガラス屋さん八戸本社
ショップ探訪記

技術・製品へのこだわり、クルマ・モノへの愛、カーオーナーへの想い…。お店選びの参考に、はたまたディテイリングの奥深い世界に触れるだけでも、全国津々浦々、多彩なショップを覗いてみてはいかがでしょうか。

そもそもガラス屋さんって?

ゴーストなどの発色系フィルムの流行を皮切りに、近年何かと話題になっているカーフィルム。法律は長らく変わっていないものの、今さらながら可視光線透過率の測定に関して一般カーオーナーはもとより自動車事業者内でも議論を呼び、様々な情報が行き交っています。
そうした中、カーオーナーに向けた的確かつ精力的な情報発信とともに、独自の施工方法で同業プロからも注目を集めているショップが青森県八戸市にあります。

それが「くるまのガラス屋さん(法人名:自動車ガラス販売八戸、佐藤松男代表)」。その名の通り、カーフィルム専門店ではなく自動車ガラス修理の専門店。その上本社を構える八戸やその周辺地域は、例に漏れず人口減少が続いている地方都市の1つ。
それにも関わらず同業プロも関心を示すフィルム施工を生み出した同社。その背景には、むしろ融雪地帯のガラス専門店だからこそという事情も垣間見えました。

そもそも自動車ガラス専門店という事業形態自体、ピンとくる人も少ないかもしれません。
交通事故や災害、走行中の飛び石などでガラスが破損した際に必要となる交換やリペア。脱着など一般的な自動車整備とは異なる専門技能を要し、それを専門に手掛けるのが自動車ガラス修理店です。突発的な災害や事故を除くと、雪解け時期はスタッドレスに挟まった小石飛来に起因する修理需要が多く、特に融雪地域では欠かせない存在となっています。

その一方、大抵のガラス修理は自動車ディーラーや整備工場が窓口となっており、ガラス修理店が外部請負として作業するケースが大半。一般カーオーナーが直接ガラス修理店に修理依頼するケースは少ないこともあり、ガラス修理業の歴史は古いものの社会的認知は高くなく、総務省の日本標準産業分類に「ガラス修理業」として業態認定されたのも2014年と比較的最近です。

くるまのガラス屋さんも、1973年設立と創業50年を迎える老舗企業。そのガラス修理業をメインに、県内に本社含めた3店舗、岩手県に4店舗を展開。修理に加えてカーフィルムの施工も豊富な実績を有するほか、専用ブースで施工するボディコーティングもこだわりをもっています。外部請負が多いガラス修理業の特性もあって顧客の多くは国産・輸入車ディーラーや整備工場ですが、近年はウェブでの情報発信をはじめとした様々な取り組みにより一般カーオーナーからの直接依頼も徐々に増えてきているそうです。

  • くるまのガラス屋さん八戸本社
    ガラス修理店は事業者請負が多く一般ユーザーが入りづらい店構えも珍しくないが、同社は店内も顧客対応も明るい雰囲気
  • カーフィルム:ブレインテック(ゴーストシリーズ)/リンテック(ウインコスシリーズ)/アネスト(ドット対策フィルムなど)…など
  • ガラス修理:(交換/リペア/エーミング)
  • コーティング:モデスタ…など
  • その他:ペイントプロテクションフィルム(PPF)/ウインドウプロテクションフィルム(WPF)/ヘッドライト復元…など各種施工/積載車あり/代車あり

仕上がりの綺麗さとトラブル防止を両立

  • くるまのガラス屋さん八戸本社
    カーフィルム専用の施工スペース。カットするプロッターも設置されている

各種ディテイリングサービスの中でも主力のカーフィルム。そして特徴的なのが、ガラス修理のノウハウを取り入れたフロントガラスへのフィルム施工です。通常、カーフィルム施工の際はガラス脱着をせずに貼り付けるのが一般的ですが、同社ではガラスを脱着してからフィルムを貼付する施工法を採用。この施工法により大きく2つの利点を生み出しています。

1つが、綺麗な仕上がりを実現できること。通常、フィルム施工ではどうしても空気中のゴミなどが接着面に入り込んでしまうもの。どのガラス面でも同様ですが、可視光線透過率が高く、運転時に常時視界に入るフロントガラスは、そのゴミの混入が他のガラス面に比べて目につきやすくなってしまいます。ガラスを車体から取り外しす同社の施工では、施工液とともに流れ出てくる内装奥の汚れや空気中のゴミの混入リスクを抑えられ、より綺麗な仕上がりを実現できるそうです。

そして脱着のもう1つの利点が、故障リスクの軽減です。専門店の経験豊富なフィルム施工職人でもリスクとして恐れているのが、施工液の混入による電子機器のトラブル。フロントガラス下部のダッシュボードの奥には電子機器が搭載されており、フィルム施工時に使う施工液が垂れて入り込んでしまうと、最悪の場合故障の原因に。プロの施工者は様々な工夫を重ねてこれを防いでいますが、ガラスを装着したままフィルム施工している限りはこのリスクをゼロにはできません。逆に脱着してのフィルム施工は、このトラブルリスクを完全に防げるのです。

同社でフィルム事業を主導する佐藤敦彦取締役専務は、「特にオーロラ系フィルムの登場以降フロント3面への施工依頼が増える中で、この脱着施工を始めた。当初こそ、社内的にも各スタッフを取りまとめて施工体制を確立するまでに苦慮した」と導入の経緯を話します。もちろん、社内で全ての作業を完結できるとはいえその分の工賃がかかるため、フィルム施工費は相場に比べて割高。施工するフィルムや車種によって異なりますが、フロント3面施工で15万円程になるケースも珍しくないそう。
それでも、「今は仕上がりの綺麗さや安全性を優先し、弊社ではこの方法のみでフィルム施工を請け負っています。カーオーナー様もディーラー様にも事前にご案内し、金額含めご賛同いただいている」と佐藤専務は自信を示します。

  • くるまのガラス屋さん八戸本社
    見た目の派手さを一因に一部では物議を醸すゴースト。同社では高価な測定器を用いて保安基準を厳守した施工を提供

また、定番のスモークや透明遮熱タイプからオーロラ系フィルムまで幅広いフィルムラインナップを取り扱う中、オーロラ系では2020年からブレインテック社のゴーストフィルムを採用。地方運輸局などと同様の可視光線透過率測定器PT-50、PT-500も導入し、仕上がり・保安性の両面で品質を担保したカーフィルム施工を提供しています。特に保安基準に適したPT-50、PT-500は業務用機器としても高価で、プロショップ(フィルム、ガラス専門店や整備工場、ディーラーなど)でも保有しているところは多くありません。
「オーロラ系フィルムはお客様から問い合わせが多かったが、法律や安全性などに関して社内でも賛否があった。メーカーなどにも情報を貰いながら『安心な施工』といえる法的根拠を固め、測定器と合わせて運用している」と経緯を話す佐藤専務。取り組みを進めた根底には「自社の会社としての立場はもちろんカーオーナーを守るため」という想いがあったそうです。

見えない品質を伝えるべく…

「ガラスを脱着してのフィルム施工」と一言でいうと簡単そうですが、実はプロの中でもこれを一手にできる事業者は極めて稀。「1:フロントへのフィルム施工」「2:ガラスの脱着」に加え、近年では車両によっては「3:ガラス脱着後のエーミング※」という3つの異なる専門技能が必要だからです。
※2020年から特定整備制度が施行され、ADAS(先進運転支援システム)を搭載した対象車両のガラス脱着では特定整備認証の取得工場でエーミングという調整作業が必要。

ガラス事業者では現在、各社で特定整備への対応が随時進んでいますが、くるまのガラス屋さんでは制度が整い情報が出揃う以前から同業他社と積極的に情報交換をして対応。特定整備制度施行後は速やかに認証を取得しました。
また20年8月には、県内で初めてテュフラインランドジャパンの「ガラスリペアショップ認証」も取得。エーミングも含めた修理をはじめ、設備機器やショップの外観、サービス対応、スタッフマネジメントなどガラス修理ショップとしての幅広い項目の品質を世界的な第三者検査機関が認証するもので、良い工場の「見える化」の役割を果たします。

  • くるまのガラス屋さん八戸本社の特定整備認証プレート
    ADAS搭載車両の普及が進む中、高度化するガラス修理に対応。業界内でも早くから対応を進めていたという

こうしたPT-500の導入やテュフ認証の取得は、フィルム、ガラスそれぞれの専門店で見ても先進的な取り組みで、現時点で対応しているショップは全国で見てもそう多くありません。
その中で同社が推進するのには、「自社やその仕事、品質を知ってほしい」という率直な想いがあるそうで、佐藤専務は「ガラス事業は下請けがほぼ大半で、一般カーオーナーに知られる機会が少ない。自動車アフター業の中でもヒエラルキーの下層に位置していると現場で仕事をしている時から肌で感じていた。こだわりの技術を披露するコーティングなどディテイリングサービスは花形に見えていたし、自社のことをちょっとでも知ってもらえたらという気持ちをずっと持ち続けている」と胸の内を明かします。

その取り組みの一環として、近年はyoutube動画の発信にも精力的に取り組んでいます。特に最近では、ゴーストなどカーフィルムに関し、各製品の紹介はもとより可視光線透過率測定や法規制、純正ガラスなど様々な角度で発信。自動車ガラスやカーフィルムに関してはメディアでの情報発信も少なく業界内外で様々な情報・意見も飛び交う現状、実際に様々な車両・製品を施工・測定している「生の知見」と「法的根拠」をベースにした情報は、カーオーナーにとっては(もしかしたら同業プロにとっても)現場を知らない下手な有識者よりもよほど参考になる一次情報になりえるでしょう。

ガラス修理にしても各種ディテイリングメニューにしても、なかなか目で確認しづらいサービスの品質。「自社やその仕事を知ってもらいたい」という想いの下、様々な情報をオープンに発信する同社の取り組みの裏には、その品質への確固たる自信が窺えます。同社に直接愛車を持ち込めない地域のカーオーナーでも、特にカーフィルムに関しては同社の知見が詰まった動画は一見の価値アリです。

  • くるまのガラス屋さん八戸本社佐藤敦彦専務
    各認証の取得や動画・SNSでの情報発信を一手に手掛ける佐藤専務
配信動画の中でも視聴回数が一際多い解説動画。動画配信も佐藤専務が主導
ショップ名くるまのガラス屋さん(法人名:自動車ガラス販売八戸)
住所
アクセス
〒031-0072 青森県八戸市城下3-10-1 (八戸本社)
八戸自動車道八戸北ICより約7km
JR・本八戸駅より徒歩約10分
電話番号0178-43-3651
営業時間9:00〜18:00
定休日第2土曜/日曜/祝日/夏季・年末年始
ウェブサイトhttps://kurumanogarasuyasan.com

CARDE編集部

90年代前半から東京都下でショップを営むプロディテイラーと元業界紙記者のコンビ。“現場のリアルな視点”と“客観的な情報編集力”でカーユーザー第一の情報をお届...

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