【コラム】ディテイリングとは? サービスの基本からビジネストレンドまで
一言に「ディテイリングショップ」といっても、ショップ探訪記で様々なショップをご紹介しているように提供サービスは店舗によって様々。なかなか統計資料などで見えない部分も多いディテイリング業について、改めて近年の情勢も踏まえてご紹介します。
そもそもディテイリングとは、自動車内外装の「細部」まで綺麗に仕上げて美観を演出するサービスのこと。そのための資材も洗浄剤やコーティング剤などの各種ケミカルも貼り付ける各フィルムも業務用が多く、ディテイリングを専門に手掛けるプロをディテイラーと呼びます。
ちなみに英語圏では「Auto Detailing」という呼称で、カーディテイリングは和製英語のような呼び名。ただ、コーティングや各フィルム製品では海外製なども広く使われているように、ディテイリング業自体は日本のみならず世界的にもオートアフターの基本的なサービスの1つとなっています。
▼主なディテイリングサービス
- 洗車
- コーティング(ボディや各パーツ)
- カーフィルム
- ラッピング/ペイントプロテクションフィルム(PPF)
- 外装の各リペア(デント、ウインドウなど)
- 内装のクリーニング(除菌・消臭など含む)・コーティング・リペアなど
特にここ数年、業界内でも変化が大きいのが高級コーティングやPPFといった高級車向けの高単価サービス。特にPPFは耐久性・耐候性がここ数年でも飛躍的に向上し、従来サーキット走行車両など一部ユーザーだけに使用されていましたが、腐食するアルミモールや生活傷がつきやすいドア・トランク周りの保護など、より広い車両・パーツ・ユーザーに広がりつつあります。どちらも適切な技術・設備環境を要する専門性の高さも特徴で、現時点ではまだ量販店やディーラーなどの参画も少なく、ディテイリング専門店が得意とするサービスでもあります。
一方、長年にわたって大きな変化が見られず堅調なのがカーフィルムや内装関連。
カーフィルムは、プライバシーガラスの普及やフロント3面の可視光線透過率70%という法規制などを要因に、製品種類が大幅に増えたり施工台数が増えたりといった変化は大きくない様子。公的な定量データはないものの、「販売量は長年大きく変化していない」といったメーカーの声もあれば、「近隣の施工専門店で閉業したところは少なくない」といった施工店の声も聞こえてきます。
また内装関連は、ディテイリング専門店ではむしろ「手掛けるショップが減っているのでは」という声が聞こえてくる程。内装ケアのメインであるルームクリーニング(ルークリ)は、ガソリンスタンドや用品店、FC展開する専門企業など窓口自体は減っていないものの、品質の均一化や価格競争の激化なども相まって個人規模の多いディテイリング専門店では取り扱いが減ってきているような印象です。
ディテイリング業自体が日本標準職業分類に規定されておらず、サービス・職業の統計資料が乏しいため、あくまで上記は業界内で聞こえてくる声などの定性的情報に基づく見解。
ただ、とりわけコーティングにしても内装ケアにしても取り扱い事業者(窓口)が増えるに伴い、例えばコーティングなら時間をかけた下地処理や空調管理下での塗布、内装ケアであれば清掃にとどまらずレザーなどのリペアや張替など、より専門特化したサービス展開が進んでいるのは専門店の1つの傾向ではないでしょうか。それも踏まえ、愛車ケアにどこまでを求めるかを念頭にショップを探してみるのが、費用対品質という点でのコスパに優れたサービスを見つける近道かもしれません。
外注作業でもメリットはある?
前述のディテイリングサービスは、専門店であれば多くが自社スタッフで作業する内製の割合が比較的高いもの。特にそのサービス名を冠する専門店であれば内製の場合が多いですが、一方で例えばコーティング専門店などではラッピングやPPF、カーフィルムなどを協力企業に外部委託(いわゆる外注)しているケースも少なくなく、リペアに関しては外部委託の方が多いかもしれません。
そして、受付サービスに掲げているものの、ディテイリングショップの多くで外部委託しているのが以下のサービスです。
- ガラス修理
- 電装品取付
- 鈑金塗装・リペア
- 整備・車検
上記は主に自動車整備業や自動車修理業に分類されるサービスで、そもそも各ディテイリング業とは一線を画す業務内容。ただ、新車ディーラーやガソリンスタンド、カー用品店などが本業以外の業務を受け付けているのと同様に、“カーライフの困りごと”の解決手段としてディテイリング専門店で窓口をしているところは少なくありません。
そして、その外注作業ながらディテイリングショップに依頼することの大きな利点が、「一定の仕上がりのキレイさを担保してくれる」のを期待できる点です。
特にボディの鈑金塗装や電装品取付などで重宝するポイント。一般的なカーオーナーの場合、頻繁には電装品取付やボディ修理をする機会はないでしょう。またボディ修理や電装品取付の「キレイさ」は客観的な指標がなく、お店選びに時間を費やしたり見つけられなかったり、場合によっては「鈑金塗装終えてみたら傷は確かに消えたけど微妙に肌目が美しくない」「電装品の動作は問題ないけど、取り付け方や配線が目につく…」といったことも。
その点、「直す」や「取付」のプロではなく「キレイのプロ」であるディテイラーが間に入ることで、キレイに仕上げてくれる専門事業者に依頼してくれたり、仕上がりのクオリティをカーオーナーに代わって確認してくれたりといったことを期待できます。あくまで「キレイさ」は主観による部分が多く、結局はショップ次第でもありますが、修理や電装品取付の際に「何よりもキレイな仕上がり」を求める場合は、ディテイリングショップに相談してみるのはアリかもしれません。
また、価格に関しても「外注だと中抜き分の手数料がもったいない、直接依頼した方がお得」といった見方もあるかもしれません。ただ、事業者同士の取引の場合、一般価格より割安な業販価格のケースが多く、一般カーオーナーが直接依頼した価格に仲介料が上乗せされるわけではありません。これもショップ次第ではありますが、最も気になる価格でも「外注=必ず損する」というわけではないことは知っておいて損はないでしょう。
一方でカーオーナー側で注意しておきたいのが、多くのディテイリングショップが整備や修理のプロではないということ。「クルマ屋さん=クルマのプロ」と見えがちですが、国家資格の分解整備士や国交省認証に規定される自動車整備業、同業組合が確立されていて日本産業分類にも登録されている鈑金塗装や電装品整備、ガラス修理などと異なり、カーディテイリングは無資格での営業が基本。ショップによっては分解整備士が在籍しているところもありますが少数で、整備・修理などに関してはプロではない、というのは愛車を預けるカーオーナー側も知っておいた方が良いかもしれません。
ビジネスとしては儲かる?
ディテイリングショップは店舗がある周辺地域の車両保有台数という内需に依存するので、人口減少や高齢化が進行する国内で展開する以上、将来的に長く安泰かは正直不透明な要素は少なくないでしょう。
ただ短期的には、車両の進化に伴い純正仕様からイジりづらくなったことやカーオーナーの高齢化、若年層の経済事情の悪化などを背景に、チューニングやドレスアップといったカスタム需要に代わる「愛車へのお金の掛け方」として美観保護=ディテイリングが注目されつつある側面もあるようです。
実際、「高級車を対象としたPPF・ラッピング」は、100万円を超えるような施工にも関わらず施工者不足も相まって一部ショップに依頼が集中し、納期・バックオーダーが1ヶ月以上ということも珍しくありません。
ディテイリングサービスは自動車関連サービスながら不必要性・趣向性が強いため、こうした富裕層顧客を集客できるショップ・ディテイラーであれば、低賃金や人手不足が叫ばれる他のアフター関連事業と比べても高収益を図れる可能性も。現にディテイリングの一線で活躍する元整備士ディテイラーや、家庭を持つためや生活のために安定収入を目指してディテイラーとなった人も少なくありません。また、先進運転支援システム(ADAS)の普及や車両保険(新車特約など)の拡充を一因に事故修理件数の減少を受ける鈑金塗装事業、販売台数が伸び悩む車両販売店などでも、新たな収益事業としてディテイリング業を模索する動きもあります。
加えて各ディテイリングサービスともに出張施工でも一定の品質を提供でき、社員ではなく小規模・個人事業主でも営みやすいのも1つの特徴。整備や鈑金塗装のように大々的な設備を必ずしも必要とせず初期費用を抑えての起業が可能で、PPF・ラッピングで高収益を稼ぐ若手ディテイラーや、FC・スクールを活用してルークリやコーティングで脱サラする人などもいます。
ただ、どの業種業態でも同様ですが、業界の中で高単価高収益を実現できるのはごく一部。元々ディテイリングの原点は下取り車両の再商品化(ルークリや艶出しなど)といわれており、新車ディーラーや中古車販売店といった車両販売店の下請けとして比較的低単価・低賃金を強いられているディテイラーが少ないことも見過ごせない点です。
特に今後、ステータス性を満たす存在としての自家用車ではなく、リースやカーシェアなどのクルマの利用形態の普及が進めば、こうした“清掃作業員”としての側面は一層強くなるかもしれません。
それでも、「汚れ」や「その清掃」自体は社会的になくならないもの。仮に各施工技術を提供する対象のクルマが減ったりなくなったりしても、例えば建物などに転用できる知見・技術ノウハウが少なくないのも美観サービスの魅力でしょう。
安定した収入があり、また社会的に不可欠な「清掃業務」という観点で見れば、異業種出身の女性でも「働きやすい仕事」になりうるケースも。これまで「クルマ好きが趣味の延長で手掛ける仕事」という見られ方も強かったディテイリングですが、徐々に「仕事としての魅力」も広まりつつあるように見受けられます。